未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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別世界!?全日本毛がに早食い競争 ガブリ!と毛ガニにかぶりつく。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.286 |12 August 2025
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#4産地でしか体験できない味

このお祭りに参加したい! と長万部まで一緒に来た同行者3人と会場の木陰で毛ガニを食べることにした。ピクニックスタイルで青空の下、高級品の毛ガニを堪能するのも、「おしゃまんべ毛がにまつり」の醍醐味だ。

正直に告白すれば、僕はカニをそんなに食べたことがない。まだ実家に住んでいた頃(26歳まで)、お正月に出てきて、「おいしいけど、食べるのが面倒だな」と思っていた記憶がある程度で、僕はいま46歳だから、もしかしたら20年以上食べていないかもしれない。しかも、実家で食べたカニと見た目が明らかに違うので、恐らく今回初めての毛ガニ体験。

聞いた通り、カニの爪で胴体から身を出し、口に入れてみた。すると、口のなかで濃密な甘みが花開くようにフワッと広がって、なぜか小声で「うまっ!」と言っていた。もっと食べたい! と爪で身を取ろうとしても、うまく取れない。僕は、おいしいものが目の前にあるとクジラのように大口を開けて吸い込むように食べてしまうのだけど、このもどかしさもまたいい。焦らされるように、時間をかけて少しずつ味わうのも悪くないと思った。これが大人の嗜みというやつか。

お腹にあるかにみそもまた、海の恵みを凝縮させたような旨みがあり、目をつぶってじっくりと味わった。長万部商工会の加藤さんは、かにの鮮度はみそでわかるという。

「採れたてのやつと冷凍しているやつの違いは、みそを食べるとよくわかります。新鮮な毛ガニのみそはものすごくおいしいんですけど、冷凍したやつは冷凍焼けといって、パサパサで味が飛んでしまっているので」

……ということは、毛ガニを最高の状態で、しかもお手頃価格で食べようと思ったら、「おしゃまんべ毛がにまつり」に参加するのが一番ということ。通販が発達した今、毛ガニを食べたければ数回のクリックで購入できるけど、産地でしか体験できない味があるのだ。

お客さんが毛ガニを求めて長蛇の列を作る理由がわかった。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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