未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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世界最小の鹿を“のぞき”に行きませんか?

埼玉にプーズーがやってきた!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.90 |10 May 2017
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#5飼育係は山に草木を採りに

飼育施設内の草木を美味しそうに食べるプーズー。

 この話を聞いて、僕は驚いた。動物園の動物は、購入した飼料を食べているものだと思っていたし、飼育員が自分で山に入って調達しているなんて聞いたこともない。

「飼料もあげていますが、少ない量で栄養が足りるように作られているから、すぐにお腹いっぱいになって食べ終わってしまうんですよ。そうなると、暇な時間が増えてしまうじゃないですか。なまの葉っぱだと、栄養素が少ないからそれなりの量を食べなきゃいけないし、噛んで、反芻して、という自然な動作も加わるから、健康に良いんです。山の中にはプーズーが食べる植物がたくさんあるから、山を荒らさないように考えながら採ってくるようにしています」

 実は僕も子どもの頃から動物が大好きなんだけど、それだけに以前は、狭い空間に閉じ込められている動物がかわいそうだと思うこともあった。本やテレビで希少種の保護や繁殖というのが動物園の存在意義だと知っていまは納得しているけど、自然とは程遠い環境で飼われ、ストレスからか同じ行動を繰り返しているような動物を見ると悲しくなる。

 手間暇を考えずに「暇な時間をなるべく減らそう」と考えを巡らせてくれる小山さんにプーズーが飼育されていると知って、僕は安心すると同時に嬉しくなった。

 小山さんは、「もっと生息地の環境に近づけたい。そのためにやることは尽きない」と語る。目指すのは、自然の行動を引き出すこと。

この写真のなかにいるプーズーを見つけられますか?

「もともと野生でする行動が、彼らの自然の行動ですよね。その行動が彼らの魅力でもあるので、生息地に似せた環境でいかにそれを引き出すかを考えています。お客さんも自然な行動を見たほうが楽しいと思うし、そこから保護区に思いを馳せて、その動物が減っていることや、どうやって守っていくかを考えてくれるようになったら嬉しいですね」

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未知の細道 No.90

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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