この話を聞いて、僕は驚いた。動物園の動物は、購入した飼料を食べているものだと思っていたし、飼育員が自分で山に入って調達しているなんて聞いたこともない。
「飼料もあげていますが、少ない量で栄養が足りるように作られているから、すぐにお腹いっぱいになって食べ終わってしまうんですよ。そうなると、暇な時間が増えてしまうじゃないですか。なまの葉っぱだと、栄養素が少ないからそれなりの量を食べなきゃいけないし、噛んで、反芻して、という自然な動作も加わるから、健康に良いんです。山の中にはプーズーが食べる植物がたくさんあるから、山を荒らさないように考えながら採ってくるようにしています」
実は僕も子どもの頃から動物が大好きなんだけど、それだけに以前は、狭い空間に閉じ込められている動物がかわいそうだと思うこともあった。本やテレビで希少種の保護や繁殖というのが動物園の存在意義だと知っていまは納得しているけど、自然とは程遠い環境で飼われ、ストレスからか同じ行動を繰り返しているような動物を見ると悲しくなる。
手間暇を考えずに「暇な時間をなるべく減らそう」と考えを巡らせてくれる小山さんにプーズーが飼育されていると知って、僕は安心すると同時に嬉しくなった。
小山さんは、「もっと生息地の環境に近づけたい。そのためにやることは尽きない」と語る。目指すのは、自然の行動を引き出すこと。
「もともと野生でする行動が、彼らの自然の行動ですよね。その行動が彼らの魅力でもあるので、生息地に似せた環境でいかにそれを引き出すかを考えています。お客さんも自然な行動を見たほうが楽しいと思うし、そこから保護区に思いを馳せて、その動物が減っていることや、どうやって守っていくかを考えてくれるようになったら嬉しいですね」

川内イオ