Silkroad Bakery SHERに全国から押し寄せる注文は、FacebookやInstagramといったSNS、中央アジアの雑貨などを販売するECサイトから受けている。日本語のみならず、ウイグル語や旧ソ連の共通言語であるロシア語なども駆使して、注文を取りまとめ発送まで行っているのが香織さんだ。
「小学校のときに学習机についてきた世界地図を見てね、唯一イメージが沸かなかったのが中央アジアだったんです。当時はソビエト連邦が崩壊したばかりだったから、情報がほとんどなかったんじゃないかな」
中央アジアって、どんなところなんだろう。そんな疑問を抱えていた香織さんが、ようやく現地を訪れることができたのが、大学三年生のとき。中国の西端、ウイグル自治区を訪れ、人や建物、言葉、食事、すべてに魅了されてしまったという。
「『ハマっちゃった』って感じですよね。今度は、西側には何が広がっているんだろうって気になって、お金を貯めては半年ごとに通っていました。特にウズベキスタンとキルギスが気に入って、セットでよく行ってましたね」
お金を稼いでは中央アジアに舞い戻る生活のなかで、シェルさんとの出会いはタクシーだった。大学生で英語教師を目指していたシェルさんがお小遣い稼ぎに運転していたタクシーに、香織さんが乗ったのだ。
「当時はSNSもスマホもないから、メールアドレスを交換して別れました。そのときすでに3回目の中央アジア。またすぐに戻ってくることはわかっていたので、メル友としてやりとりしていましたね」
その後、ふたりは結婚。キルギスで暮らすつもりだったが、情勢不安により日本での生活をスタートさせたのだった。