未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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春日部のシルクロードへようこそ 中央アジアの焼きたて「ノン」の味

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.154 |24 January 2020
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#8春日部にあったシルクロード

「この家を見つけたときにね、シェルが『シルクロードに似てるな』って言ったんです」

結婚後に暮らしていた神奈川から、春日部に引っ越してきた理由を尋ねると、香織さんが「おもしろいでしょ」と笑いながら話してくれた。

Silkroad Bakery SHERのすぐ側を通る、国道16号。横浜から埼玉を通って首都圏を結び、千葉まで続くこの大通りが、中国と西洋をつなぐシルクロードに似ている。シェルさんはそう言って、車から降りる前に「ここにしよう」と即決したのだという。

「彼の実家は、中国とウズベキスタンをつなぐシルクロードに面している家なんです。大きな通りに面しているから、パン屋としてもどんどん新しいお客さんが入ってくるような場所だった。道の太さも、行き交う車や人の量も、たしかにここに似てますね。いつか飲食業をやってみたいと話していたので、イメージしやすかったのかもしれません」

さらに、この場所は住宅街ではなく「工業地域」と指定されており、一般的な住宅地では禁止されるような工場設備や飲食業の運営が許されているという。あれだけ大きな窯を家の前に置いても大丈夫だった理由は、ここにあった。

「でも、まさかノンを売ることになるとは思っていませんでしたね。最初は、自分たちが食べるためだけに作っていたので」

そうなのだ。いまや日本中の中央アジア人が注文するノンは、最初はシェルさんが自分と家族のために焼き始めたものだった。それも、植木鉢を改造した自作の窯で! 

「植木鉢の底を外して逆さまにしたもので焼いていました。ノンが6個しか焼けないくらい、小さな手作り窯でしたね」

それを日本にいる中央アジア出身の友人にお裾分けしたところ「まさしく故郷の味!」と評判になった。ところが「これは商売になるよ」と言われても、シェルさんは「いやいや、まさか」と取り合わなかったという。

そんなシェルさんのノンを、まわりが放っておくわけがなかった。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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