体験発掘の前には、研究員による地層や古代生物についての簡単な講義があった。
「100人参加者がいれば、毎回5個ほどのアンモナイトが見つかります」と歌川さん。多くは親指サイズくらいの小さなもので、うっかり見逃す人も多いのだという。私もゲットの可能性あるかも! ここで一気に気持ちが盛り上がった。
金属や岩石を加工したり割ったりするための工具「タガネ」とハンマーを使うときの注意点などを教わり、いざ発掘!
当然、私が狙うのはアンモナイトだ。
できることなら発掘の確率を少しでも上げたい。ひとりでは心もとないと思い、私は夫とふたりの息子も誘って挑戦することにしていた。
体験発掘場では、ヘルメット、化石の破片が目に入らないように守るための防御メガネ、タガネそしてハンマーが貸し出される。
短いガイダンスがあった後、「発掘開始!」の号令がかかると参加者は一斉に発掘場に乗り出した。発掘時間はおよそ1時間だ。
ベテラン発掘家らしき長靴とつなぎ姿の人が、まるで忍者のように素早く移動するのを横目に、私はよろよろと発掘場を登った。
予想以上の傾斜だ。しかも地面には小さな石がごろごろしているので、転ばないように細心の注意を払う。
気が付くと、皆あっという間に自分の持ち場についているではないか。素早い!
出遅れた私は、おろおろしながら歌川さんに「どこを掘ったらいいですか」と聞いた。 「地層の中で白くなっているところがありますよね。貝もたくさんうまっているので、あそこを掘るといいですよ」とアドバイスをもらった。
地層にタガネをハンマーで打ち付けようとするが、岩が固くてタガネが殆ど食い込まない。この地層をうまくはがし、それを半分に割って、化石がないか一つひとつ丹念に確認をしていくのがコツらしい。
15分ほどハンマーを打ち付けたが岩はびくともしないうえに、日頃のパソコン作業で酷使している右腕の肘がさっそく痛んできた。どの岩に化石が入っているかわからない状態で、ひたすら石を割っていくのはかなり忍耐もいる。
これは「本気で取り組まないと、ゲットは難しいかも……。というか、まず必要なのは筋トレなのでは……?」開始早々悟った。
100人ほどの参加者が、化石を無心で掘る姿は圧巻だ。カン、カン、カンとタガネを打ち付ける無数の音が、高い空に吸い込まれていく。
研究員の歌川さんは、参加者が掘りあてた化石の名前を次々と答えていく。
「あ~、これは二枚貝のイノセラムスですね」
「これは、二枚貝のアピオトリゴニアかな」
「やったー!」「すごっ!」と喜ぶ人の声、なかなか化石が見つからずに焦る人の心の声(これは私)。悲喜こもごもの人間ドラマが、体験発掘場で繰り広げられていた。
しばらくすると、夫も二枚貝の化石を見つけたようだ。
そこへ息子が「これなんか入ってそう~」と、どこからか貝がたくさん詰まった岩を持ってきた。息子がその岩を割ってみたところ、「うわ、なにこれ……?」息子が素っ頓狂な声をあげた。
まさか……?
訝りながら覗き込むと、手の指の爪くらいの小さいけれど丸みを帯びた貝らしきものが岩の中から、ちょこんと顔を出している。
「こ、これは、もしやアンモナイト様では……?」研究員の歌川さんに急いで確認すると、「これはエゾイテスの仲間の異常巻きのアンモナイトですね」とのお答え。
通常よく見られる平面上で、らせん状に隙間なく巻かれたアンモナイトは「平巻き」という。しかし進化の過程で、三次元的に複雑な形状をとるアンモナイトもいて、それを「異常巻き」というらしい。とくに病気などではなく、進化の過程で生まれた形なのだという。
それにしても、まさか、こんなに早くアンモナイト様に出会えるとは!! ありがとう息子よ。
結局、私が見つけたのは二枚貝のイノセラムスと植物の化石のみ。自力ではアンモナイトも、密かにカッコいい! と狙っていたサメの歯も見つけられず、1時間の発掘は終了した。
100人ほどの参加者中、アンモナイトをとったという人が3名ほど、サメの歯をとったという小学生が2名。ほぼ全員が「イノセラムス」をゲットするなど様々な化石が発見されたようだ。
「毎週のように、来る人もいるんですか?」と聞くと、「そうですね。神奈川の方に住んでいたけど化石を掘りたくていわき市に移住した人もいるみたいですよ。多分、化石移住した人って、県内でも初めてなんじゃないかな」と歌川さん。
通常、化石を掘るには地権者などに許可をとる必要があるが、ここは許可を気にせず自由に発掘できるのが魅力。それゆえに発掘を愛する人たちが集まる場所にもなっているようだ。