ちなみに採掘した化石は、そのまま置いておくと風化してしまうらしい。
実際、体験発掘会で掘り出したばかりの時は輝きを放っていた化石たちも、持ち帰る間に他の石と擦れて砂が落ち、すでに風化が始まっているように見えた。
「少しでもこの姿をとどめたい」と思った私は、アンモナイトセンターで教えてもらったように、木工用ボンドと水を混ぜた液を化石に塗る保存処理をすることにした。
二枚貝の保存処理を終え、アンモナイトに取り掛かろうと思ったが、岩に埋まった状態ではどうも格好が悪い。
アンモナイトの全体像が見たいという欲が湧いてきた私は、とりあえず工具セットから最もタガネに近そうに見える道具を取り出してきて、周りの岩を取り除く作業に取り掛かった。
「僕もやりたい!」と発見者の息子も加わったが、あっという間に飽きて去っていった。「よし、これで、集中して取り組める」と思った矢先、「このアンモナイトの先を手で引っぱれば、意外と簡単に取れるんじゃないの?」と甘い考えが頭をよぎり、軽く力を加えてみた。
ポロッ
なんと、アンモナイトの頭の部分だけが取れてしまったではないか。
私は泣きたかった。結局、小指の爪ほどの小さなカケラになってしまったアンモナイト。
息子に土下座して謝ると、「また取りに行けばいいから、気にしなくていいよ」と案外さっぱりしていて助かった。
それにしても、化石がこんなにも脆く繊細だとは知らなかった。まるで生きているように刻々と姿を変えていく。やはり、掘り出した瞬間が、最高の姿だったと思う。
私は、カケラになってしまったアンモナイトを手のひらにのせてまじまじと見つめた。
化石を探す喜びに魅了された鈴木千里さんによって、巨大アンモナイトが発見され、「いわき市アンモナイトセンター」ができた。そして幼い頃にアンモナイトセンターを訪れた歌川さんが、今度は研究員として訪れた人たちに化石の魅力を伝えている。
アンモナイトセンターがあったからこそ、8900万年もの時を超えて現代に姿を現したアンモナイトが、今、私の手のなかにある。
その瞬間、このとんでもなく時空を超えた出会いの不思議な感覚が、身体中を駆け巡った。
化石発掘の本当の喜びが、ほんの少しだけわかったような気がした。