そして、それを叶える日がやってきた。
春風に揺れる桜並木を車で走り抜け「那須どうぶつ王国」へと向かった。月曜日だというのに、ゲート前には思いのほか多くの来園者がいて驚いた。誕生日の人も多いようで、園内のあちこちでスタッフから「お誕生日おめでとう!」と声をかけられている。ぴょんぴょんと跳ねながら駆けていく男の子は、とびきり嬉しそうだ。「特別な日に家族で遊びにきたのかな」と想像して、思わず顔がほころんだ。
真白家族が暮らす「オオカミの丘」は、ゲートを通って左手に曲がればすぐだ。SNSを通して成長を見守ってきたものの、真白とはこれが初対面。胸のどきどきを抑えながら、ふぅーーーっと大きく息を吐いてオオカミの丘までの道を歩いた。


真白は、すぐ目の前にいた。もうすっかり大人のサイズになっているけれど、表情はあどけなさが残る。「大きくなったねぇ……」なんだか親戚のおばちゃんのような気持ちだ。
でも、今日は取材で来ている。高鳴る気持ちを抑えながら、目尻を下げてオオカミ親子を見つめていると、背後から声をかけられた。
「真白、見つけられましたか?」
振り向くと、那須どうぶつ王国の広報・平野知己さんがにこにこしながら立っていた。
平野さんは、今回の取材にあたって窓口となり飼育員さんへの取材調整をしてくださった。オオカミ親子に関する取材は、これまでの経緯もあって、慎重に対応されてきたという。メールでやりとりを重ねるなかで、「事前にいくつか質問を送っていただけると、安心して話してくれるかもしれませんよ」と助言をもらい、そのおかげで今回の取材が実現したのだ。
「真白が生まれた当時から関わっている飼育員は、今、この園にひとりしかいません。もし彼女がいなくなったら、『こうだったと聞いています』としか伝えられなくなります。だから今日は、貴重なインタビューになりますよ!」
その言葉に緊張で顔がこわばった私を見て、平野さんは「ははは」と笑いながら、「まだ時間がありますから、園内を案内しましょう」と歩き出した。