
ヘーゼルナッツとの縁が再び繋がったのは、「はしばみフィナンシェ」と出会ってから22年後、食品加工機械を扱う輸入商社で働き続けて50歳になる頃。
「Bean to Bar(ビーン トゥ バー)」という、カカオ豆からチョコレートになるまでの全工程を一貫して行う加工技術を学びに、イタリアのトリノを訪れた時のことだった。
ある冬の日、研修先の会社の社長が「山の上のおいしいトラットリアでランチをしましょう」と誘ってくれた。
車で1時間かけて山道をのぼる。窓の外を見ていると、車道の両脇一帯に見知らぬ木が立ち並んでいた。
「なんだか、りんご畑が広がる長野みたいな風景だ。でも見たことのない木だな……」
トラットリアの駐車場に到着し、通訳に聞いてみた。
「これはなんの木ですか?」
「世界で一番おいしいと言われているピエモンテ産のヘーゼルナッツの木ですよ」
世界一と聞くと「ナッツの味にそれほど差があるのだろうか?」と疑問を抱く人もいるかもしれない。しかし一流のパティシエなら、香りだけで産地がわかるほど明確な差があるという。ピエモンテ産ヘーゼルナッツは、渋みが少なく、甘みがあるのが特徴だ。
岡田さんは衝撃を受けた。南国でしか栽培できないと思い込んでいたヘーゼルナッツが、雪の中で根を張っている。それなら同じような気候の長野でも、きっと栽培できるはずーー。
すぐさま携帯電話を取り出し、目の前の風景を動画におさめた。その動画にはこんなナレーションが入っている。
「これが世界で一番おいしいと言われるピエモンテのヘーゼルナッツです。雪の中でも元気にスクスク育ってます。リンゴやブドウは、他県が生産を伸ばしています。それらに変わる特産物を考えていきませんか。ヘーゼルナッツは長野にピッタリだと思います」
岡田さんは「すごい土産ができた」と胸を熱くしながら、日本へ戻った。