
目を覚ましてスマートフォンを開くと、フォローしていた 「#日本一の芋煮会フェスティバル」の投稿が次々に流れてきた。
4:12の表示とともに、暗闇の中で外される大鍋の蓋。
プールのように水が揺らいでいる鍋のなかに、白い調理服を身に付けたスタッフが手作業で里芋を投入する。
巨大バケツから鍋にダイブインした蒟蒻たちは、すぐにぷかぷかと表面に浮かぶ。
しばらくするとエンジン音がして、山形県を代表するだし入り醤油「味マルジュウ」の箱がクレーンで運ばれてくる。調味料の投入だ。
画面いっぱいに、すでに"祭りの鼓動"が始まっていた。
「え、もう動いてるの?」と驚き、 スクロールする指が止まらない。
夜明けが近づくにつれ、 投稿の写真も暗闇から明るい色へと変わっていく。
クレーンの影、薪の炎、そして鍋の蓋を開けた瞬間に立ちのぼる最初の湯気。
その投稿の多くが、フェスティバル広報部の富塚健さんたちによるものだった。
「薪燃える」「湧き上がる」「肉投入」「ネギが入ると一気に鮮やかに!」
短い言葉と写真の連投に、 画面のこちらまで、熱気と匂いが伝わってくるようだった。
SNSの向こうで動く人たちのエネルギーに、肩がむずむずして、ワクワクが止まらなかった。
フェスティバルが、すでに目を覚ましている。
後日、富塚さんに会ったとき、その"朝の光景"がどんなものだったのかを聞いた。
「実はあれ、3時から動いてたんですよ」
そう言って笑う。
「今年は特にSNSの更新を増やしたんです。"薪を積みます"、"湯気が立ちます"、"もうすぐ蓋を開けます"って、 一連の流れをリアルタイムで届けたくて。来られない人も、画面越しに芋煮の香りを感じてもらえたらうれしいなと思って」
実行委員長の五十嵐政治さんも言っていた。
「昔は現場の情報なんてなかったですからね。雨が降りそうだと、やっているかもわからない。 行ってみないと混んでるのかわからない。 でも今は、SNSで"リアルな会場"が伝わる。お客さんも安心できるし、僕らも助かります」
フェスティバルは、開幕する6時間も前から始まっていたのだ。
SNSの発信を見ながら、私はもう、現場にいる気分になっていた。
この祭りは、きっと想像を超えるに違いない。
そう確信して、私は家を出た。