未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
292

日本一の芋煮会フェスティバルの知られざる舞台裏 6.5メートルの大鍋がつなぐ輪

文= ロマーノ尚美
写真= ロマーノ尚美(表記があるもの以外すべて)
未知の細道 No.292 |10 November 2025
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#2午前3時、フェスティバルが目を覚ます

目を覚ましてスマートフォンを開くと、フォローしていた 「#日本一の芋煮会フェスティバル」の投稿が次々に流れてきた。

4:12の表示とともに、暗闇の中で外される大鍋の蓋。
プールのように水が揺らいでいる鍋のなかに、白い調理服を身に付けたスタッフが手作業で里芋を投入する。
巨大バケツから鍋にダイブインした蒟蒻たちは、すぐにぷかぷかと表面に浮かぶ。
しばらくするとエンジン音がして、山形県を代表するだし入り醤油「味マルジュウ」の箱がクレーンで運ばれてくる。調味料の投入だ。

出典:日本一の芋煮会フェスティバル 公式Facebookリールより

画面いっぱいに、すでに"祭りの鼓動"が始まっていた。
「え、もう動いてるの?」と驚き、 スクロールする指が止まらない。

夜明けが近づくにつれ、 投稿の写真も暗闇から明るい色へと変わっていく。
クレーンの影、薪の炎、そして鍋の蓋を開けた瞬間に立ちのぼる最初の湯気。

出典:日本一の芋煮会フェスティバル 公式Facebookリールより

その投稿の多くが、フェスティバル広報部の富塚健さんたちによるものだった。
「薪燃える」「湧き上がる」「肉投入」「ネギが入ると一気に鮮やかに!」
短い言葉と写真の連投に、 画面のこちらまで、熱気と匂いが伝わってくるようだった。

SNSの向こうで動く人たちのエネルギーに、肩がむずむずして、ワクワクが止まらなかった。

フェスティバルが、すでに目を覚ましている。

後日、富塚さんに会ったとき、その"朝の光景"がどんなものだったのかを聞いた。

「実はあれ、3時から動いてたんですよ」

そう言って笑う。

「今年は特にSNSの更新を増やしたんです。"薪を積みます"、"湯気が立ちます"、"もうすぐ蓋を開けます"って、 一連の流れをリアルタイムで届けたくて。来られない人も、画面越しに芋煮の香りを感じてもらえたらうれしいなと思って」

実行委員長の五十嵐政治さんも言っていた。

「昔は現場の情報なんてなかったですからね。雨が降りそうだと、やっているかもわからない。 行ってみないと混んでるのかわからない。 でも今は、SNSで"リアルな会場"が伝わる。お客さんも安心できるし、僕らも助かります」

フェスティバルは、開幕する6時間も前から始まっていたのだ。

SNSの発信を見ながら、私はもう、現場にいる気分になっていた。
この祭りは、きっと想像を超えるに違いない。

そう確信して、私は家を出た。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
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