
次に案内されたのは、なんとも奇妙な形をした車だった。
巨大なメッシュ状のタイヤ。ゴツゴツとした車体。まるで子どもが想像で描いた「未来の車」のようだ。
「これ、月面車ルナ・マーズローバーの試作機です。NASAから100年間レンタルしてるんです」
「……100年?」聞き間違いかと思った。
「ええ。買うと7億5000万円かかる代物ですが、父が『100年貸してください』と申請書に書いたら、NASAの広報部長が『面白い。貸してやれ』って」誠明さんは笑いながら続ける。
「先日、NASAからメールが来まして。『今後も借り続けますか?』と。もちろん借り続けます。あと70年ありますから。その頃には、ぼくいないんですけど(笑)」
なんという壮大な話だろう。100年レンタル。そんな契約、聞いたことがない。
館内には他にも、驚くべき展示物が並んでいる。アポロ計画で使われた司令船、アポロ17号が持ち帰ってきた月の石、旧ソ連のモルニア通信衛星……。どれも、NASAや旧ソ連から羽咋市が正式に譲渡または購入した「本物」だ。
中でも私の心を掴んだのは、天井に吊るされた「ボイジャー惑星探査機」の展示だった。
ボイジャーは、人類史上、地球から最も遠い場所まで行った惑星探査機だ。
かつて木星、土星、天王星、海王星に接近し、観測を行うことに成功したという。でも、私が一番驚いたのは、別のことだった。
「この探査機には、地球外知的生命体へのメッセージを収録したレコード盤が取り付けられているんです」
その名もゴールデンレコード。地球の音や音楽、55の言語でのあいさつ、そして地球の位置を示す情報が刻まれている。もし、どこかの星の誰かがこれを見つけたらーー。そんな壮大な「もし」に、私はすっかり魅了されてしまった。
「実際にどんな音が入っているか、聞いてみますか?」
誠明さんの案内で、収録されている音声を聞いた。バッハのピアノ曲、日本の尺八、自然の音、鳥のさえずり、そして「こんにちは」という各国の挨拶。宇宙の彼方を飛び続けるこのメッセージが、いつか誰かに届くかもしれない。そう想像するだけで、胸が高鳴り、なんだかワクワクした。
宇宙の魅力にすっかり取り憑かれた私は、「誠明さんも宇宙がお好きなんですか?」と尋ねると意外な答えが返ってきた。
「実は僕、最初は宇宙にまったく興味がなかったんです」そう誠明さんは打ち明ける。
「でも働いて初めて、ここに何があるか知りました。“本物”の価値も、父のすごさも」
展示物の中でもひときわ存在感を放っているのが、旧ソ連の「月面探査機ルナ24号」のバックアップ機だった。
「これはめちゃくちゃ価値が高いですよ」と誠明さんの声も弾む。
「旧ソ連の無人探査機である『ルナ』は、世界でこれ一つしか残っていないそうです。父が交渉した当時は、1000万円で購入できましたが、アメリカのオークション会社から提示された現在の金額は13億円になっていました」
13億円……ゴクリと喉がなる。しかも世界にひとつしかない月面探査機が、ここ羽咋で見ることができるなんて。
「宇宙好きの人たちからは、ここは聖地と呼ばれているんです」
確かに、これだけの「本物」が集まっている場所は、日本中探してもないだろう。そう思うと同時に、謎が深まる。……なぜ、こんな田舎町に?
その答えを知りたくて、私は後日、コスモアイル羽咋の発案者である高野誠鮮さんを訪ねた。