
ジャガイモは、低温で貯蔵すると内部の水分が凍結して細胞が壊れるのを防ぐため、主成分のでんぷんを糖に変える性質がある。水は通常0度で凍るが、不純物が混じることで0度よりさらに凝固点が低くなるのだ。これを「低温糖化」という。
ジャガイモに限らず低温糖化はほとんどの野菜で起きるため、寒冷な北海道では低温熟成して甘みを増した野菜は珍しくない。上野さんが驚いたのは、波佐さんが「丸1年熟成」ししていることだ。
「低温熟成と言っても、ほとんどの場合、冬の間、土のなかで貯蔵したもので、長くてもだいたい半年程度なんです。それでも十分に甘くなるんですよ。でも、波佐さんは雪室の熟成庫を持っていて、丸1年、熟成していました。ジャガイモって気温が上がれば芽吹くか腐るし、低すぎたら凍って食べられなくなるから、絶妙な温度を保たなきゃいけなくて、本当にすごい技術なんです。そのジャガイモを食べたら甘みがまったく別物で、度肝を抜かれました」
その長期熟成ジャガイモなかでも、上野さんが注目したのが「ピルカ」。北海道で育成されて2011年に登録された比較的新しい品種で、アイヌ語で「美しい」という意味を持つ。
「すごく繊細で、育てるのが難しいらしく、栽培している農家は珍しいと聞きました。いろいろなジャガイモを食べて、イモ利きができるようになってきたなかで、それまで聞いたこともないピルカを1年熟成させたものを食べたら、あまりのおいしさにもう感動しちゃって」
ピルカを使ってフライドポテトを作る。そう定めた時点で、上野さんは「イージーにできると思っていました」。間もなく、それが間違いだったと気づく。