取材に訪れた日、館内には前日までのイベントで使用されたプラネタリウムが残っていた。8人ほどが入れる手作りのドームだ。森さんが設計図を書き、パーツごとに切り出して組み立てたという。
「プラネタリウムに行ったことはありますか?」と聞かれ、「はい」と答える。「東の空から太陽が昇ってきました。正面に見えるのはオリオン座です、とか、ていねいに教えてくれたでしょ? 眠くなったことない?」と聞かれ、その通りだと思った。
ところが、「うちのプラネタリウムは、教えないの」と少し得意げな山浦さん。ドームに入ると、一人ひとりにレーザーポインターを渡し、「あなたの知っている星座を教えてください」と始まる。自分の知識を総動員して星を探し、空と向き合うと、ただ説明を聞くより、ぐっと主体的な体験になるのだ。
プラネタリウムに入る前には、「問診票」を書いてもらう。「あなたが実際に見たことのあるものにチェックを入れてください」。用紙には、日の出、日の入り、日食、月食、満月、上弦の月……と項目が並ぶ。
これで、あまり空を見上げたことがない人か天体好きな人か、もしくは専門家か、だいたいのことはわかるそうだ。そこから相手に合わせて解説を変える。理科ハウスのプラネタリウムでは、寝ている人はひとりもいないという。
森さんと山浦さんは、来館者がどこで足を止めるか、なにに反応するのかを入館してからずっと見ている。すでに知っていることを長々と説明したり、興味のないことを話したりする無駄を省き、その人にいちばん響く入口を探しているのだ。
相手に伝わる解説は、理科ハウスが受け入れている学芸員実習にも生きている。多くの学芸員実習は、資料の取り扱いや展示の方法など、バックヤードの仕事を学ぶ。しかし、理科ハウスでは実際の現場で、自分の専門を来館者にわかりやすく解説する展示をつくるのが課題だ。しかも、実習日の来館者は山浦さんが手配する。
「実習生のいいところ、悪いところ、わかりにくかったところを、しっかり指摘してくれるような来館者を選びます。中学生、高校生、大学生、大人、教員と、曜日によって来館者を変えていくので、鍛えられますよ」
来館者の半分以上がリピーターという理科ハウスならではのセッティングだ。「今年は何人来るの?」と実習生を待ち構えている常連さんもいるようだ。
初日は緊張していた実習生も、最終日には「すごく面白かった。人と話して、わかり合えるってなんて楽しいんだ」と言って帰っていくという。