話は開業時に遡る。利明さんがハッピードーナツをオープンする際、ある製粉会社と密にやりとりをしていた。今でこそ、業務用のミックス粉にはさまざまな種類があるが、1970年代はまだドーナツ用のミックス粉が広がりを見せ始めた頃だった。
利明さんは、その会社のドーナツ用のミックス粉の開発に力を貸した。一方、営業担当者もお店の相談によく乗ってくれた。
なかには、長く関わるなかで親戚のような付き合いになった担当者さんもいた。利明さんと大人になった康弘さんの「バチバチ」の関係を取り持ったのも昔の担当者さんだった。
「たまに、昔の担当者さんから『ご飯でもどうだ?』って電話がかかってくるんですよ。これは間違いなく父の差し金だと思いましたけど、都内のいいお店にご飯に連れて行ってもらえるので、当時ひとり暮らしをしていた身にはありがたいなと思っていました」
利明さんからの電話は無視していた康弘さんも、まるで親戚のおじさんのようなその人には逆らえなかった。
それでも利明さんとの関係は改善しないまま、康弘さんは2018年に千葉市に自身のパン屋をオープンする。「職人として、父を抜かしたい」という思いを持って。