少しずつSNSでお店が話題になり、売り上げも回復してきた頃。病に倒れた利明さんは、心臓の手術を受けた。
「心臓を一回止めるっていうから、死ぬかなと思ったんだけどね」。
その入院中、病室にやってきたお医者さんや看護師さんに言われたのは「加藤さん、すごいね」という言葉だった。聞くと、お店が人気番組『マツコの知らない世界』に取り上げられて、話題になっているという。
退院の日、迎えに来た娘の運転でお店に戻った。「パパ、お店見てよ、すごいんだよ」という言葉通り、見たこともないほどの行列ができていた。
「そのときね、『あぁ、ものにはタイミングがあるんだな』って思いましたよ。若い時から50年近く好き勝手やってきたけど、ちゃんと神様は見ててくれるんだって」
その行列が、康弘さんの心も動かした。
「父親が倒れたときに、『店を継いでくれないか』って死にそうな顔をしながら言われたことがあって。今思えば詐欺ですよ、こんなに元気なんだから。その時は、考えさせてくれって言ったんです。継いだらまたケンカするのはわかっていたし、自分のお店もあるしプライドもあったから。でも、いろんなことを周りに言われながらも続けてきたお店が、ここにきてこんなにたくさんのお客様に来てもらえるようになったのは、父がやっと認められたんだと思ったんですよね」
迷いに迷っていた康弘さんの背中を最後に押したのは、娘の「おじいちゃんのお店を継いでほしい」という一言だった。2025年9月に自身のパン屋をたたみ、10月からドーナツを作る生活が始まった。