未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
304

住宅地に突然現れるアメリカンなドーナツ店 1日4000個が売れるまでの、父と息子の物語

文= 竹田りな
写真= 竹田りな
未知の細道 No.304 |11 May 2026
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#8転機になったテレビ番組

利明さんは、「トランプ以外は今もアメリカが好き」なのだそう。

少しずつSNSでお店が話題になり、売り上げも回復してきた頃。病に倒れた利明さんは、心臓の手術を受けた。

「心臓を一回止めるっていうから、死ぬかなと思ったんだけどね」。

その入院中、病室にやってきたお医者さんや看護師さんに言われたのは「加藤さん、すごいね」という言葉だった。聞くと、お店が人気番組『マツコの知らない世界』に取り上げられて、話題になっているという。

退院の日、迎えに来た娘の運転でお店に戻った。「パパ、お店見てよ、すごいんだよ」という言葉通り、見たこともないほどの行列ができていた。

「そのときね、『あぁ、ものにはタイミングがあるんだな』って思いましたよ。若い時から50年近く好き勝手やってきたけど、ちゃんと神様は見ててくれるんだって」

その行列が、康弘さんの心も動かした。

「父親が倒れたときに、『店を継いでくれないか』って死にそうな顔をしながら言われたことがあって。今思えば詐欺ですよ、こんなに元気なんだから。その時は、考えさせてくれって言ったんです。継いだらまたケンカするのはわかっていたし、自分のお店もあるしプライドもあったから。でも、いろんなことを周りに言われながらも続けてきたお店が、ここにきてこんなにたくさんのお客様に来てもらえるようになったのは、父がやっと認められたんだと思ったんですよね」

迷いに迷っていた康弘さんの背中を最後に押したのは、娘の「おじいちゃんのお店を継いでほしい」という一言だった。2025年9月に自身のパン屋をたたみ、10月からドーナツを作る生活が始まった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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