―ここにはどんな犬がいるんですか?
村林さん 30年前に犬ぞりを始めた時は、最初にシベリアンハスキーの雄雌を買って、自家繁殖していました。でも、「犬ぞりを本格的にやるなら、訓練された犬を手に入れて、犬から犬が学ぶ環境を作っていかなければいけない」という話を聞いて、犬ぞりで南極横断に成功した冒険家の舟津圭三さんから、しっかり訓練されたアラスカン・ハスキーのリーダー犬を2頭、譲り受けたんです。
アラスカン・ハスキーは、極寒地で活躍する「そり犬」として繁殖される雑種犬で、とても丈夫で強靭な体力と足腰を持っています。リーダー犬が来てからは、その2頭をベースに、4年に一度、血統の違うハスキーを譲り受けて、繁殖していきました。富良野にいた時は餌の確保が大変だったので20頭だったんですが、ここではエゾシカの肉が手に入るので、45頭まで増やしました。
―リーダーが来て、なにか変わりましたか?
村林さん ぜんぜん違います。先生役がいると、犬たちも見様見真似で学習していくんですよ。一般の家庭で飼われている犬は、飼い主である人間と強い主従関係を築きますが、そり犬は集団で飼育されるので、「犬の社会」で生きています。だから、犬から犬が学ぶということができるんですよ。僕は彼らにとって群れのボスみたいな位置づけですが、絶対的な主従関係はないので代替可能です。犬ぞりってチームで売買されることもあって、新しいボスの下でもなじめるように育てられるんです。
―普通の飼い犬とはぜんぜん違う?
村林さん はい。僕も彼らをプロのそり犬として育てているので、彼らにとっては「そりを引くことが生きがい」みたいな感じです。もちろん性格と相性があるので、僕がひと通り組み合わせて乗ってみるということをひたすら繰り返して、チーム分けします。でも、犬も経験を積むことで成長するし、人間の子どもを見ている感覚に近いですね。