バギーに続いて平地を抜けると、間もなく山のなかに入っていった。まったく人が足を踏み入れた様子もなく、ふかふか、サラサラの新雪が木々と地面を覆っている。冬の雪山に足を踏み入れること自体が初めてで、その静かで透明感のある景色に見惚れた。
その感慨は、登り坂が始まって終わった。それまで快調に走っていた犬たちが、必死という言葉がぴったりの様子で足をフル回転させている。それでもスピードが落ちてきて、サンやバルトが振り返って僕のことをチラチラ見るようになった。午前のレクチャーでスタッフさんに言われた言葉が、蘇った。
「登り坂になると、犬たちも大変です。スピードが落ちてきたら、そりを押してあげてください。完全にそりを降りると犬とそりが先に行ってしまうので、片足で地面を蹴るイメージです」
よし! 僕は目の前の犬たちに「OK! 行くぞ!」と声をかけ、地面を蹴った。すると、犬たちの足腰にも力がみなぎったように思えた。
想定外だったのは、けっこう長めの登り坂が終わって、少し下ったり、平たんな道になって一息ついた後、再び登り坂に突入する、ということが二度、三度と続いたことだ。よく考えるまでもなく、山に登っているのだから当たり前なんだけど、これが汗をかくほどハードで、日ごろの運動不足を痛感した。
疲れた……と思って足を休めていると、犬たちがまたチラチラと僕を見やるので、サボっているのがばれた気分をごまかして、「OK! いいよ、いいよ! 頑張っていこう!」と声を張り上げる、ということの連続だ。
そうこうしていると、犬たちの性格の違いが見えてくる。リーダー然とした先頭左側のクリスは決して後ろを振り返らず、ひたすら前を向いて足を動かす。真面目一徹という雰囲気だ。その隣のチョッパーは、坂がきつくなってきたら僕を見る。ただし、責めるような視線ではなく、「旦那、勝負所ですぜ! ここ、踏ん張りましょう」と、むしろ叱咤してくれる感じだ。
後方左のサンは、せっかちで気が散りやすいタイプ。走りながら頻繁に雪を食べたり(体を冷やすため)、ウンコをしたりと忙しい。後方右のバルトは、登り坂になると振り返って僕を見る回数が最も多く、そのせいか「もうちょっと頑張ってよ」と言われているような気分になった。
これは僕の(被害?)妄想も多分に含まれているので実はまったく違う性格かもしれない。でも一緒に走っていると一頭、一頭の個性が違うのはよくわかった。