犬ぞりに関わって30年の村林さんも、この仕事をしていて犬たちとの絆を感じる時に、「やっていてよかったな」と思うそうだ。
「前にテレビの取材が来た時、スノーモービルにたくさんの機材を積んで撮影していたんですけど、途中でスノーモービルが動かなくなっちゃったんです。撮影スタッフの帰りの飛行機の時間もあって、これはヤバいという雰囲気になりました。それで、5頭ずつ2台のそりで走っていたのをひとつにまとめて10頭引きにして、すべての人間と機材をそりに乗せて運ぶことにしたんです。犬たちは『これはいつもの違うぞ』と理解してくれてね。すごい重さだったけど、懸命に走ってくれたおかげで、帰りの飛行機にも間に合ったんですよ。その時は本当に誇らしかったですね」
この話を聞いたのがすべてを終えた帰り際だったから、自分のチームの犬たちの頑張りを思い出して胸が熱くなった。なぜか、最近流行りの言葉がポロリと口に出た。
「まさに、ワンチームですね」
その瞬間、これが微妙なダジャレになっていることに気が付いた。そんなつもりはなかったので恥ずかしくなり、取り繕うように「今日も、本当によく頑張ってくれました」と伝えると、村林さんが笑った。
「いやいや、彼らは普通の犬の感覚とはぜんぜん違うので、ゴールした後に『よしもう一回行くぞ』と言ったら、喜んで走り出しますよ。川内さんを乗せてもう一往復するぐらい、なんでもないんで」
ええ!? マジっすか!? そり犬たちは僕が想像するよりもずっとタフだった。犬ぞりの世界は深い。もっと知りたい。なにより、僕のチームのメンバーたちにまた会いたい。僕は胸のうちで再訪を誓った。