北海道における犬ぞりの歴史や、「本物志向」の村林さんや犬たちの話は興味が尽きず、あっという間にランチタイム終了。午後は、待ちに待ったマッシャー体験だ。
ゲルの外に出ると、すでに犬とそりが用意されていて、あとは乗るだけ……という甘い展開にはならない。ひとり用のそりは4頭引きで、スタッフさんが5人それぞれに犬を割り振っているので、自分のチームの犬たちにハーネスをつけ、そりに括り付けるところから始まる。犬たちは慣れているのか、嫌がるそぶりを見せることもないので、ここは淡々と。
準備が整ったら、いよいよスタート。雪が深々と降り積もっている天候により、今日のコースは片道8キロ、往復16キロのコースになった。想定より4キロ少ないけど、日本で体験できる最長距離には変わりない。
このツアーでは、そりから転げ落ちたりしても置いてけぼりにならないように、村林さんが4輪バギーで群れを先導し、スタッフさんがスノーモービルで最後尾を守る。
僕は今回、バギーのすぐ後ろ、犬ぞりの先頭に配置してもらった。メンバーはクリス、チョッパー、サン、バルト。村林さんによると、子ども、女性、高齢者など乗る人によって走り方を変えられるほど気遣いができる犬たちで、「いざというときには放っておいても大丈夫」と太鼓判を押す精鋭。取材なので、気を使ってくれたようだ。
これから始まる未知の旅への期待が高まり、ドキドキしながら出発の合図を待っていたら、村林さんが歩み寄ってきて「この犬たち、ほかのチームと比べて静かだと思いませんか?」と聞かれた。
確かに、ほかの4人のそりの犬たちは「早く出発しようぜ!」という感じでワンワン吠えているのに、うちのチームは明らかにテンションが低い。なぜだ?
「犬ぞりは、お客さんとして乗るんじゃなくて、人間もチームの一員として乗るんです。犬たちに声をかけて、気持ちを盛り上げてあげてください。今は『ああ、乗るの? まあいいけど』みたいな感じですよ」
そういうことか! 確かに女性陣はそれぞの犬たちに何かと声をかけていたけど、僕は早く出発したくて、ろくに声もかけずにソワソワしていた。早速、そりからおりて、全員に「よろしくな!」「頑張っていこう!」と話しかけ、身体をゴシゴシとこすった。それでもあまり反応はなかったけど、タイムアップ。
バギーで先行する村林さんが手を挙げた合図を見て、僕は「ハイク!」と声をかけた。その時の犬たちの反応が、冒頭に記した感じ。「弾けたように」という形容詞がぴったりの様子で、一気に駆けだしたのだった。