そうして犬と自分を励ましながら苦労して坂を登り切った後に現れる風景には、何度も息をのんだ。人里離れた雪山に広がる白銀の世界は、疲労を忘れさせるのに十分なインパクトがあった。
「こんな景色、見たことない!」と思ったのは、折り返し地点の天狗平。かつては小学校や牧場があったという山の頂には、折からの雪もあって見渡す限り真っ白な空間が広がっていて、ため息が出るほど美しかった。
天狗平がこのツアーのハイライトだと思ったのは早計だった。同じコースを戻りつつ、違う角度から見る景色を楽しんでいた復路のラストで待っていたのは、大きくカーブする、けっこう急な下り坂。そう、往路では犬たちが不安そうな顔をした最初の登り坂だ。
犬たちも下り坂になると楽になると知っているのか、喜び勇んで駆けていく。そりもググっとスピードアップして、気分はジェットコースター。もちろん、シートベルトなんてないから、バランスを崩すとそりから転げ落ちるという緊張感もあるけど、ここまで一緒に山を駆け抜けてきた犬と駆け抜けるラストスパートは、本当に爽快だった。
旧支湧別小学校に帰り着く頃には、犬たちへの感謝の念が湧いてくる。ここで体重は公表しないけど、けっこう、いやかなり重い僕をここまで運んでくれてありがとう。お前ら、さすが精鋭部隊だな。そりを降りて、クリス、チョッパー、サン、バルト、それぞれにハグをして、頭をゴシゴシ撫でて、お礼を伝えた。


彼らも、スタート前のやる気なさそうな感じとは違って、心なしか嬉しそうにしているように見えた。前から犬は好きだけど、往復16キロの旅を経ることで、こんなにひとつのチームとしての達成感と一体感を得られるとは思わなかった。
日本を代表するマッシャーの本多有香さんは、約1600キロを走り切ったから、僕らの100倍の距離だ。ということは、本多さんがゴールするときに感じたであろう高揚感の1%ぐらいは味わえたかもしれない。
女性陣も、「景色がすごく素敵でめちゃめちゃ楽しかった」「わんちゃんがチラチラ見てきて、そんな顔で見ないでって思ったけど、大満足です」「寒かったけど景色がそれに勝ってて。またやってみたいです」とみんな笑顔で、往復16キロを満喫したようだった。