未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
158

“悩み”や“迷惑”も持ち寄ろう! 「いつだれキッチン」は今日もゆるやかに大繁盛!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.158 |25 March 2020
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#5弟は幸せに逝ったと思いたい

————本人を変えるんじゃなくて、周りの環境を変えよう————
これは、言うは易しだけど、行うは難し、まあまあ突飛な発想である。だって、世の中はそういう風に動いていないのだ。
しかし、とし江さんにとっては、それは当たり前の考え方だった。それを教えてくれたのは、とし江さん自身の弟さんである。

「弟はダウン症で、重い障害があり、生まれた当初は20歳まで生きられないと言われていました。弟が若い頃に入っていたのは大規模な施設でした。そこでは、とにかく弟がそこのやり方に合わせるしかなかった。でも、そもそも、弟が望んでそこに入ったわけじゃないんです。私たち家族の都合で弟はそこにいるだけ。そう気がついたあと、弟は家に戻って家族と一緒に暮らすことになったんだけど、それはそれで大変でした」
それからというもの、とし江さんは、弟さんが心地よく過ごせる居場所を作ろうとグループホームを立ち上げたり、シェアハウスを始めたり……、人生をかけて試行錯誤するなかで、自らNPOを立ち上げて、障害のある人々がゆっくりと過ごせる地域活動支援センターなども運営してきた。

「おかげで20歳まで生きられないと言われた弟ですが、60歳まで生きることができました。最後はシェアハウスで幸せに過ごすことができたかな、そう思いたいんです」

その長年の確かな経験が、「いつだれ kitchen(キッチン)」の哲学につながった。他の人たちも賛成だった。
「実験としてやってみたらおもしろいよね。福祉事業所とかじゃなくて、いつでもだれでも、悩みすらも持ち寄れる場を作ろう、ということになりました」(猪狩さん)
話を聞きながら、わあ、すごい、ほんとにすごいですね、と感動しっぱなしの私が言うと、猪狩さんは、わはは! と豪快に笑った。
「俺と中崎さん、吉田さんの3人は“突飛アイディア系”なんですよ!」

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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