未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
158

“悩み”や“迷惑”も持ち寄ろう! 「いつだれキッチン」は今日もゆるやかに大繁盛!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.158 |25 March 2020
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#9それぞれの物語を抱えて

実際に足を運んでみるとわかるが、「いつだれ」はそんなに広くない。だから、どうやっても知らない他人同士がテーブルをシェアすることになる。
「そうやっていろんな人と話してみると、実はそれぞれが生きづらさを抱えながら、ここに来ていることがわかってきました。そんな物語があるなんて、僕らは、想像してなかった」
そう驚きを隠せないのは猪狩さんだ。

例えば、お父さんと成人した二人の娘さん三人で毎週ここに来る家族がいる。どうして毎週来るのだろうと猪狩さんたちがその人たちの話を聞いてみると、意外なことがわかった。
「もともとは大家族の家で、亡くなったお母さんを偲んで来てるんだって。大家族だから、その家はいつも大皿料理で、味付けも似てるそうで。お母さんが亡くなったあと、お父さんは食生活が乱れてしまった。そこで、娘二人と一緒に少なくとも木曜日はここでお昼ごはんをたべようという約束をして、お母さんを思い出してながら食べているそうです」(猪狩さん)

な、泣ける!

体重が22キロしかないガリガリに痩せたおばあちゃんも通ってくる。そのおばあちゃんは、原因不明の病気で食事が喉を通らないでいた。そこで、「新しい食堂ができたから食べにいってみない?」とケアマネさんが提案し、娘さんがためしにと連れてきた。すると、不思議なことに、おばあちゃんはここではご飯を食べることができたのだ。
「もともとは飲食店に勤めていた人らしくて、ざわざわして賑やかなところだと安心して食べられるみたいです。もう十回くらい来てますね。うちらも、その人が来てくれるとみんなで、うわあ!!ってなります」(猪狩さん) 
いまや、そのご家族にとって「いつだれ」がなくてはならない場所になっているという。

なかには、誰にも話せなかったような悩み事を抱えてやってくる人もいるそうだ。しかし、この場所がすごいのはそこからだ、と猪狩さんは言う。
「実際、キッチンに立ってるのは、みんな普通の母ちゃんたちに見えても、(福祉などの)プロだから悩みや困りごとを拾い上げる力ってすごいですよ!」
そして、市役所職員たちも毎週のようにここに来て、料理を手伝い、ご飯を食べて、おしゃべりをしていく。それはなんというか、仕事の手前にある仕事のようなものらしい。
「俺ら役所の人間って、普通ならばみんなが相談に来るのをただ待ってることしかできないんですよ。でも、悩みや困難を抱える人にとって、役所に相談にいくって相当ハードルが高いじゃないですか。だから、本当に相談に来てくれるときには、もう悩みや課題がすごく深刻になってるんです。本当は、その手前で解決できる問題かもしれないのに……。だからといって、市役所の人間がそれぞれの家を訪問するというのも難しいでしょう。だから、ここがその中間の場所としてあるっていうのは、俺たちにとってもちょうどいい」
なるほどー! 実際のところ、そのおかげで救いの手を差し伸べられたケースもあったという。 なんか、Win-Winって「ウィン」が二つだけだけど、もう10個くらいつけるくらいが「いつだれ」にはちょうどいいかもしれない。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。