土方さんは1962年、北海道ニセコで生まれた。生まれつき心臓が悪く、子供の頃に大手術をしたという。当時はかなり難しい手術だったが、無事に成功。しかしずっと体が弱く、高校生になるまで体育の授業も受けられなかった。なにもできなかった少年が唯一できることといえば、毎日本を読んで暮らすことだった。
親からは「拾った命だから、好きなことをしろ」と言われて育った。高校を卒業し、仙台にある東北学院大学に入学。20歳を過ぎた頃には体調もより落ち着き、定期検査も終わりになった。札幌まで病院に通うこともなくなり、大学卒業後はどうして生きていくか? となったときに、真っ先に考えたのは「本」のことだった。
「自分が好きなことってなに? と考えたら、もう本しか好きなことがない。じゃあ、本を作る側にまわりたい! 出版社に入りたい、ってね」
しかし、地方の私立大学から東京の出版社に入るのは、今と変わらず当時もかなり難しかった。そこで、大学卒業後にまず日本エディタースクールという専門学校に入学し、卒業後は出版社の営業を経て業界紙の編集者となり、さらにフリーの編集者となったのである。
時はバブルの真っ只中。
「フリーで飯食っていくとなると、編集だけではとてもやっていけなくて、原稿も書き、雑誌の編集も書籍の編集もやった。写真も大好きだったので、写真集の編集もね」
そうこうするうちに、雑誌の仕事で一緒になる写真家たちの写真展の企画もやるようになり、写真についての本も執筆するようになった。土方さんが当時編集した本を見せてもらうと、いまでも一線で活躍する著名な写真家たちの名前が並んでいる。一流の写真家たちの若かりし頃、一緒に仕事をしてきたのだ! と合点が行った。
古本あらえみしの店内には、古本ではなく、土方さんが編集や執筆を手がけた本も買うことができる。例えば店内で目を引くのは『ユージン・スミス: 楽園へのあゆみ』(偕成社)。世界的な報道写真家、ユージン・スミスの伝記だ。スミスの妻が日本人で、土方さんと交流があり、執筆したものだという。
またここで取り扱っている珍しい写真集は、高額なものでも、マニアが購入していくという。
「写真集は仕事で集めてきたものがベースになっていて、それが今では何万円もするような写真集になっていたりして。結果的にいい投資になっているんですよね」
品揃えに関しては、遠くヨーロッパにも届いているようだ。例えば最近も、パリの写真専門ギャラリーからメールで「日本の著名な写真家の写真集を探している、在庫はあるか?」と問い合わせがあり、高価な写真集が売れたという。
「発送や入金の手続きが大変でしたけどね」と土方さんは笑った。