私は忍術についてもっと知りたくなり、「武神館」横浜で教えるポール・マーシーさんの稽古を受けることにした。
ポールさんは米国から日本に渡り、31年間、34代宗家の初見氏のもとで稽古に励んできた。戸隠流忍術の最高位15段を持ち、大師範として指導に当たる。YouTube「忍者オヤジ ポール」で、その身のこなしを見て、ぜひ稽古を受けてみたいと思ったのだ。
稽古はまず正座での挨拶から始まり、準備運動をしてから二人一組で行う。私は冒頭にも登場した屈強な男性と稽古を行うことになった。
この日の内容は、相手の手首や指などの関節をとらえてバランスを崩す「骨指術」と、棒を使って間合いを計り相手の動きを封じる「棒術」だった。
人の体には急所がいくつもあり、その一つが関節だ。「骨指術」では、関節を巧みに捻ったり、体重をかけることで相手の体のバランスを崩したり、痛みで身動きを取れないほどにダメージを与えることができるという。
試しに、薬指の関節近くに軽く力をかける技をポールさんにかけてもらうと、呼吸が止まるかと思うほどの痛みを感じた。これは「いざというときに役立つかもしれない」と、しっかりと心の中でメモした。
棒術では、棒を相手の腹に打ち込み、さらにひねることで簡単にバランスを崩す技を教わった。稽古相手の男性がわざと倒れてくれたのでは? と疑うほど、あっけなく相手を制することができた。
ポールさんは初見氏から「手元にあるものはすべて武器になる」と教わった。棒がなければ傘でもいいし、箸さえも工夫次第で武器にできるのだという。
さらに特徴的なのが「虚術(きょじゅつ)」だ。これは相手の裏をかき、予想外の攻撃で隙を作る術。多くの古武道では教えられていないが、武神館では稽古の段階で教えてくれるところに、実戦として役立つ大きな魅力があるとポールさんは語る。
しかしポールさんは、一体なぜ、海を渡るほど忍術に惹かれたのだろうか。