未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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小柄でも大男を倒せる忍術とは? 戸隠で見つけた「生き延びる」ための知恵

文= 柳澤聖子
写真= 柳澤聖子
未知の細道 No.290 |10 October 2025
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#7本物の忍者が出演した『世界忍者戦ジライヤ』

現代忍者と呼ばれた戸隠流忍術34代宗家・初見良昭氏から、2019年に35代宗家を継いだのが俳優の筒井巧さんだ。

筒井さんは1988年放送の特撮ドラマ『世界忍者戦ジライヤ』で、主人公・山地闘破(とうは)役として出演。当時、初見氏は父親役の山地哲山(てつざん)として登場し、"本物の忍者が出演している"と大きな話題になった。

取材当日、俳優さんへの初インタビューに緊張する私を出迎えてくれた筒井さんは、気さくな人柄。楽しいエピソードを次々と披露してくださり、取材後にはむしろ元気をもらっていた。まさにヒーローのような人だった。

武神館の稽古着を持ってきてくださり、笑顔でポーズを決めてくださった筒井巧さん。手の型は武神館ならではの印の結び型で、精神を集中させるためのもの。

印象的だったのは「ジライヤ」オーディションでのエピソードだ。大学卒業後に上京し、劇団「青年座」に入ったばかりの筒井さんは、なんの番組かも知らないまま最終選考まで残っていた。

「最終選考は特技披露で、僕は最後の順番。前の人たちは空手、ボクシング、少林寺拳法と武道系ばかりを披露していました。でも僕にはそんな特技がなくて焦ったんです。そこで苦肉の策で披露したのが、中高時代にやっていた"卓球"でした。卓球台がないからエア卓球ですよ。それが思いのほかウケて、"弱い主人公が成長する"という設定に合っていたみたいで、選ばれちゃいました」

「ジライヤ」には、初見氏の忍術のアクション監修が入った。現場で初見氏と一緒に過ごすなかで、身のこなしや振る舞いを見て学ぶことはとても多かったという。

「僕らは戦隊スーツなどの防具をつけて戦いますが、初見先生は本物の忍者としてドラマ中、生身で技を見せるんです。でも、素手の先生の方が圧倒的に強くみえるんです。さすが本物の忍者だなと感心していましたね」

忘れられない初見氏との撮影中の思い出のひとつが「ゆで卵事件」だという。
ある日、現場にゆで卵を持参した初見先生は、筒井さんや、妹役、弟役の3人にゆで卵を渡した。
すると、突然「ゆで卵は殻なんて剥かなくていいんだ、カルシウムがあるし殻ごと食べられる」と言い出し、そのままガリガリと食べ始めたという。筒井さんらは呆然とした。

「でも、卵をかじった後に初見先生の歯茎から血がいっぱい出ていた姿は忘れられません」

世界中の古武術家から尊敬されていたという初見氏だったが、まったく威圧感なく優しい人柄だという。普段から冗談を交え、稽古場でも場を和ませるのが上手だったという初見氏。卵事件も、もしかしたら独自のユーモアだったのかもしれないと筒井さんは語った。

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