未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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小柄でも大男を倒せる忍術とは? 戸隠で見つけた「生き延びる」ための知恵

文= 柳澤聖子
写真= 柳澤聖子
未知の細道 No.290 |10 October 2025
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#8戸隠流忍術 35代宗家を受け継ぐ

『世界忍者戦ジライヤ』で使われた第一形態のスーツは目の部分が開いていたため、スタントを使わず筒井さん自身がアクションを担当することが多かった。持ち前の運動神経とチャレンジ精神でヒーローを熱演し、ドラマは大ヒットとなった。

撮影終了後も初見氏と交流が続き、食事会に招かれ、その際に武神館の稽古に参加するなどの縁が続いたという。

2015年には、テレビドラマ『手裏剣戦隊ニンニンジャー』に特別ゲストとして出演。47歳になった筒井さんは、35代宗家となった“ジライヤ”役を演じた。

「事務所から『ドラマが決まった』と電話があって、聞けば35代宗家を継いだ設定のジライヤ役で、おもしろいなと思いました。監督さんが子どもの頃『ジライヤ』を見ていて、大ファンだったそうです」

このドラマでは、『世界忍者戦ジライヤ』の世界観をCGで再現し、話題を呼んだ。けれど当時は、まさか自分が宗家を継ぐことになるとは夢にも思わなかったという。

「2019年12月の食事会で突然、初見先生に呼び出され、『きみが継ぎなさい』と言われたんです。30年以上修行を続ける師範が大勢いらっしゃるなか、私はまだ未熟で、荷が重すぎると、一度は辞退しましたが『勉強してください』と。でも師範方から『先生の言葉は絶対だから』と背中を押され、決意しました」

初見氏が広めた武神館は、「神伝不動流打拳体術」「虎倒流骨法術」など九つの流派を統合して世界に教えを広めてきた。筒井さんが継いだのは、その中のひとつ「戸隠流忍術」の宗家だ。

こうして35代宗家となった筒井さんは、今も自宅近くの森で手裏剣投げの練習を行うこともあるのだという。
今回は特別に愛用の手裏剣やまきびしを見せてくださった。

戸隠流忍術に伝わる「センバン」手裏剣を手にする筒井さん。机の上には、本物の「まきびし」と「棒手裏剣」も。まきびしは湖などに生息する水生植物「菱」の実を乾燥させたもので、尖ったトゲの先は思った以上に鋭く固い。

「手裏剣の練習は、森の中で畳を立てかけてこっそりやっています。公になって騒ぎになると困りますからね」そのほか、受け身の練習なども行うという。

さらに筒井さんは、30年以上修行を続ける師範を招き、自らも参加者と共に学ぶ場として「筒井導場」を2カ月に1回の頻度で開いている。「道場」の「道」ではなく、導くという意味の「導」の字を用いたのは「私は参加者を忍術の世界へ導く役割だから」だという。

「忍術の基本は“逃げる”ことです。目つぶしで煙を出し、その隙に逃げる。攻撃ではなく防御と生還が目的なんです。初見先生は平和をなにより大切にしていました。その知恵を伝えられるよう、僕もできることをやっていきたいです」

これまで話を聞いてきて共通して語られた、「初見氏はなにより平和を大切にしていた」というメッセージが心に残った。

実際に忍術の稽古をしてみると、一度きりの稽古ではなにもわからないほど奥深い世界だと感じることもできた。
けれど、子どもや腕力に自信がない人が、忍術のエッセンスを身につければ、自分を守る力になるかもしれない。
非力だと思ってきた自分にも、防御する術があると知れたことは、不思議と安心につながった。

今、私は少しだけ強くなれたかもしれないと希望を感じている。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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