
コパルはPFI方式ーー民間の資金と技術力を活用して公共施設をつくる手法で計画された。建設、設計・工事監督、運営、維持管理を担う13の企業・団体がチームを組む、一大プロジェクトだ。
通常なら、設計が終われば建築へ、建築が終われば運営へとバトンタッチされる。ところがこのプロジェクトでは、すべての会社が一緒に話し合った。人が多いということは、意見も多様だということ。「未来の館長」としてチームに加わった色部さんを待っていたのは、まだ固まっていない内部仕様と、山のような検討事項だった。
たとえば、運営を担うのはヴォーチェとアプルスという二つの団体。ヴォーチェは重度障がい者へのケアに知見があり、アプルスはスポーツ振興を手がける。
「この二社がイメージしている子どもの姿は180度違いますよね」
ヴォーチェが接するのは、バギーや車いすで生活する子どもたち。アプルスが目指すのは、身体能力の向上。お互いがイメージする「子ども」が違えば、話は噛み合わない。そこに、設計の想いも入ってくる。とにかく意見がまとまらない。
「それぞれが自分たちの経験や想いをもとに、『これがコパルにとって良い』と本気で話している。間違いはないんですよね」
チームが心掛けたのが、反対意見を持ちつつも、「目の前の相手のことを理解しようと努める」ことだったという。
たとえば、障がい者用駐車場。建築の立場なら、環境に馴染む色やデザインを重視したい。福祉の立場なら、国際規格があって容易には変えられない。平行線のなかでも、相手がなにを大事にしているかを考える。すると、相手は自分が持っていない視点で、子どものことを考えているのだと見えてくる。駐車場のデザインを決めるまで、4か月。コパルが完成するまでに、一つひとつ、繰り返された議論の議事録は、150を超えた。
「インクルーシブって、遠くにある大きな理想じゃない。目の前の人に関心を持ち、理解しようと努め、その人の笑顔を考えることが原点なんです」
プロジェクトチームがたどり着いたその答えが、コパルの隅々に息づいている。




建築の専門家でも福祉の専門家でもない。でも36年間、子どもたち一人ひとりのケースに寄り添ってきた色部さんは、準備期間の1年間をどう過ごしていたのか。
「意見を出すことよりも、出ている意見同士をどう落としどころまで持っていくか、その役割をはたしていたのかなぁ」
それって、子どもや保護者、先生の間で話を聞いていた時と同じじゃないですか?
「あぁ、同じですねぇ、確かに」
学校でずっと当たり前にやってきたことが、コパルに繋がっていた。