「この先、コパルがどうなっていったらいいと思いますか?」
食堂のテーブルで、私は色部さんに尋ねた。背後から、子どもたちの明るい声が聞こえてくる。
オープンから3年目を迎えた2024年度は、来館者数が194,340人、視察件数も累計で2200件を超えたという。"コパルの輪"が確実に広がっていることを、色部さんはどう感じ、どんな未来を描いているのか。
「結局、私たちは“目の前のひとりの笑顔”を追い続けるしかないと思うんです」
色部さんはゆっくりと言葉を選んだ。「"すべての人にとって"という理想が富士山の頂上だとしたら、私たちはまだ一合目を歩いている状況です。永遠にたどり着けないかもしれないけれど、一歩一歩を確実に登っていく。コパルのインクルーシブは、そんな道のりなんです」。
コパルに来るまで、私は「インクルーシブ」を“仕組み”のようなものだと思っていた。段差のない通路、ユニバーサルデザインの遊具、情報の多言語化。そういった工夫の積み重ねが、インクルーシブなのだと。
でも、ここで過ごし、色部さんの話を聞いて気づいた。包み込むって、人の心の中で起こる小さな変化なのだと。誰かの笑顔にふれたとき、自分と向き合おうとする誰かの想いを感じたときに生まれる、見えない“センサー”のようなもの。それが伝播して、場全体の空気がやさしくなっていく。
「自分たちがやっているのは、気づきレベルのインクルーシブでしかない。いろいろ発信するにあたって『これって、独りよがりじゃないのかな』という迷いはありましたよ」と、色部さんは本音を漏らす。
それでも、目の前にいるひとりのために、という発想でいると、やりがいがあるし楽しい、と笑う。
「利益や評価ではなく、『ああ、今日はこの人が喜んでくれたな』と思えることが、一番の充実なんです」
その言葉を聞いたとき、すとんと腑に落ちた。コパルの空気が温かいのは、理念が立派だからじゃない。色部さん自身が、スタッフ皆がこの場所を心から愛しているからだ。好きという気持ちは、理屈を超えて伝わる。子どもたちも、その温度を敏感に感じ取っているのだろう。
「今の課題は、好きすぎて止まらなくなることですね」と色部さんは照れくさそうに笑った。
「コパルのことをわかってもらうには、いくら時間があっても足りないんです」
色部さんが「好き」全開で語るコパルの話は多くのメディアに掲載されている。その記事を読んで「先生出てたよ!」と教え子がやってきたり、同窓会で「俺行ってない、早くいかなきゃ」と色部先生とコパルの話題が出るそうだ。