
石川県羽咋市
あの日、秋の空に浮かんで消えた白い「何か」を、私は今でも覚えている。
35年の時を経て、その記憶をたどるように向かったのは、UFOの町と呼ばれる石川県羽咋(はくい)市にある宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」。
そこには、NASAのロケットや旧ソ連の宇宙船など“本物”が並ぶ、不思議な空間が広がっていた。その裏側にいたのは、ひとりの元スーパー公務員だった。
「ハッタリ」から始まった町おこしは、やがて奇跡のような現実を引き寄せていく――。
最寄りのICから【E41】能越自動車道 氷見ICを下車
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あれは、まだ暑さの残る秋の日だった。小学2年生の私は、教室の窓から見える空に、何かが浮かんでいるのを発見した。
飛行機かと思い目を細めて見ると、クリーム色がかった白く丸い物体。それがゆっくりと右方向に動いたかと思ったら、突然パッと消えた。
えっ?
次の瞬間、少し離れた場所に、同じものがパッと現れる。そして次は左方向に移動して、パッと消える。別の場所に現れて、また消えるーー。
な、なんやあれ……。
約1分間、その「何か」は、瞬間移動を繰り返していた。周りの友だちは「わー!」「ぎゃー!」「ひぃー!」などと、騒いでいたような気がする。7歳の私は、不思議な気持ちで、ただじっと空を見つめていた。
あれから35年ーー。あの時の記憶は今も鮮明に残っている。
能登の実家に帰省すると、買い物のたびに、大きなスーパーのある隣の羽咋市を訪れる。そこに「コスモアイル羽咋」という宇宙科学博物館があることは知っていた。中学生の時、遠足で訪れたこともある。正直に言うと、当時の印象は「ちょっと怖い」だった。暗くなるエレベーター、宇宙人の模型、巨大な機械たち。中学生だった私の目には、リアルに作られた模型が中心の、よくある地方の博物館のように見えていた。
ところが最近、驚くべき事実を知った。
あの時見ていたものは、模型ではなく「本物」の宇宙船だったという。しかも、実際に宇宙から帰還したものまである。13億円の価値がある月面探査機を、入館料たった500円(シアター付きでも900円)で見られる。
「そんな本格的な博物館だったの?」
恥ずかしながら、地元育ちなのに私は、コスモアイル羽咋のことをまったく知らなかった。
なぜ、人口2万人の小さな町に、日本で唯一といわれる貴重な宇宙船が展示されているのか。そして、なぜ羽咋は「UFOの町」と呼ばれるようになったのか。
もしかしたら、あの日見た白い「何か」と関係があるのかもしれないーー。
そんな期待と好奇心を胸に、私は改めてコスモアイル羽咋へと向かった。