
なにはともあれ、銭湯の運営には「公衆浴場営業許可」の申請が必要だ。保健所に相談に行くと、家庭に風呂がなかった昔と違って、公衆浴場は必ずしも必要不可欠なものではなくなったため、簡単には許可が降りないことが判明する。
それでもどうにか申請を通すために、まずは施設基準をクリアしなければならない。だが、建物の老朽化は厳しく、配管は複雑で、水道からは錆びた水が出た。改修工事や設備の刷新のために使える費用は、ポップアップミュージアムで働きながら貯めた数十万円のみ。これでは到底足りそうにないし、カフェもミュージアムも11月までの期間限定の仕事だったので、銭湯の営業を始めるまで収入もない。
そこで、桐生のクラウドファンディングサイトで寄付を募ることにした。見積もった目標額は300万円。地元のラジオに出演したり、募金箱を持ってお祭りに出向いたりと、泥臭い努力を重ねて、年末には目標額の半分ほどが集まった。
さらに、浴槽の掃除はボランティアを募り、塗装も自分たちで行うなど、できる限りお金をかけずに手を動かした。あとは地元企業に寄付を回れば目標額達成か――と思っていた年の瀬に、驚愕の事実が発覚する。
浴槽のお湯を清潔に保ち衛生状態を維持するために、新しく濾過器を購入する必要があった。当初は50万円程度と考えていたその見積もりが、なんと500万円かかると言われたのだ。「もうダメかも」という思いが一瞬頭をよぎったけれど、それは「ほんの一瞬」だったという。
長年、一の湯に通っていた人、お祭りで「頑張ってね」と寄付をしてくれた人……一の湯の復活を願うたくさんの人たちの思いを、山本さんは一心に受け取っていたからだ。
そうはいっても、不安にならなかったのだろうか。
「あんまり不安はなかったんだよね、それが。絶対いけるって思ってたから!」
一の湯を見たときに感じた「絶対に私がここを復活させるんだ!」は、「決意」というよりももはや「予感」に近かったのかもしれない。
結局、もう一度水道屋に詳しく調べてもらうと、250万円の濾過器でなんとかなることがわかった。クラウドファンディングの期間も1月まで延長し、268人から408万円の寄付が集まった。懸念だった「公衆浴場営業許可」の申請も、保健所を再度訪れると、必要なことを親身になって教えてくれた。
ところで山本さんは、応援してくれるあらゆる人たちを「友だちなの」と紹介してくれるのが印象的だった。工務店や水道屋の社長も、伝統工芸の重鎮も町内会長も、常連のおばちゃんも子どもたちも、山本さんの手にかかれば全員が「友だち」だ。
行政、業者、そのほか地域のたくさんの「友だち」に背中を押され、営業許可が降りたのは2023年3月30日。年度区切りで桐生市に申請していた起業補助金の100万円を受け取るための、ギリギリの期限だった。