未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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時を超えてよみがえった114歳の女工銭湯 人が人を呼ぶまちの平和な社交場へようこそ

文= 座光寺るい
写真= 座光寺るい
未知の細道 No.308 |10 July 2026
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#8日常がさり気なく交差する社交場

話を聞き終わり、桐生のまちを歩いてみると、かつての織物工場だったノコギリ屋根の建物があちこちに残っていた。写真を撮っていると「今日は散策ですか」と声をかけられ、そのまま話がはずみ、桐生の歴史や建物について気づけば1時間以上案内してもらっていた。

街のあちこちにノコギリ屋根の建物が残っていた
古い建物が立ち並ぶ街並みは歩くだけで楽しい

ふらりと入った別の店では奥の部屋に招き入れられ、その店の歴史を解説してもらった。山本さんが惚れ込んだのは、この桐生人の吸引力だったのかもしれない、と実感する。

のれんも、もともとこの建物に残されていたというものを活用している

17時、一の湯に戻ると、ちょうど山本さんが暖簾をかけているところだった。オープンと同時に歩いてやってきたのは、70代だろうか、ほぼ毎日来るという常連の女性たちだ。聞けば、復活前の一の湯にも通っていたという。毎日この時間に風呂に入りに来ては、5人ほどであれこれおしゃべりをするのだ。常連客の一人が「ここは憩いの場なの」と言うと、山本さんは、こう付け加えた。

「銭湯は社交場だからね。レトロブームで若い人たちも来るし、『疲れたら真央さんに会いたくなる』って言ってきてくれる人も多いよ。私がいつも、『ここのお湯は元気になるお湯だから、疲れをぜんぶ流しちゃいな!』って言ってるからかな。一番若いと4歳の子が常連で、いつも『まーおちゃーん!』って手をふってくれるの」

開店前に、浴室も脱衣所もくまなく丁寧に掃除をしていく

その後は、「最近はガス代が高いから、ここで入った方が経済的」という40代くらいの男性が入店。続いて、仕事帰りだろうか、30代くらいの女性も慣れた様子で自転車を駐め、なかに入っていった。

18時近く、自転車でやってきた80代くらいの男性にも話を聞いた。

「去年、妻が亡くなってね。ひとりで風呂を沸かして入ったら、また自分で風呂を掃除しなくちゃでしょ。だったらと思って、一番近いここに入りにきちゃうんです」

客層は、夜遅い時間になるにつれ、近くの大学の学生など若い人が多くなる。車の人もいるけれど、多くの常連客が徒歩や自転車でやってくる様子が、「日常」を物語る。家路につく人たちの肌は、もちろんツルピカだ。

ドラマ『ドクターX』の主人公が難しい手術を終えるたびに「気持ちいい~!」と体をゆるめにいっていた銭湯。いざ体験すると、体だけではなく、心がほぐれるのを感じた。

見ず知らずの人と小さな浴室で出会う空間では、見栄もプライドも必要ない。そこに暮らす人たちが営む日常に「丸裸で」触れることができる経験は、旅先の時間をあたたかいものに変えてくれる。

「真央さんに会いに銭湯にくる」という人がいるのも納得のこの笑顔

歴史と日常が溶け合う一の湯を後にすると、「また来てね!」と山本さんの明るい声が聞こえた。

私はきっとまた、一の湯に足を運んでしまう気がする。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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