
話を聞き終わり、桐生のまちを歩いてみると、かつての織物工場だったノコギリ屋根の建物があちこちに残っていた。写真を撮っていると「今日は散策ですか」と声をかけられ、そのまま話がはずみ、桐生の歴史や建物について気づけば1時間以上案内してもらっていた。
ふらりと入った別の店では奥の部屋に招き入れられ、その店の歴史を解説してもらった。山本さんが惚れ込んだのは、この桐生人の吸引力だったのかもしれない、と実感する。
17時、一の湯に戻ると、ちょうど山本さんが暖簾をかけているところだった。オープンと同時に歩いてやってきたのは、70代だろうか、ほぼ毎日来るという常連の女性たちだ。聞けば、復活前の一の湯にも通っていたという。毎日この時間に風呂に入りに来ては、5人ほどであれこれおしゃべりをするのだ。常連客の一人が「ここは憩いの場なの」と言うと、山本さんは、こう付け加えた。
「銭湯は社交場だからね。レトロブームで若い人たちも来るし、『疲れたら真央さんに会いたくなる』って言ってきてくれる人も多いよ。私がいつも、『ここのお湯は元気になるお湯だから、疲れをぜんぶ流しちゃいな!』って言ってるからかな。一番若いと4歳の子が常連で、いつも『まーおちゃーん!』って手をふってくれるの」
その後は、「最近はガス代が高いから、ここで入った方が経済的」という40代くらいの男性が入店。続いて、仕事帰りだろうか、30代くらいの女性も慣れた様子で自転車を駐め、なかに入っていった。
18時近く、自転車でやってきた80代くらいの男性にも話を聞いた。
「去年、妻が亡くなってね。ひとりで風呂を沸かして入ったら、また自分で風呂を掃除しなくちゃでしょ。だったらと思って、一番近いここに入りにきちゃうんです」
客層は、夜遅い時間になるにつれ、近くの大学の学生など若い人が多くなる。車の人もいるけれど、多くの常連客が徒歩や自転車でやってくる様子が、「日常」を物語る。家路につく人たちの肌は、もちろんツルピカだ。
ドラマ『ドクターX』の主人公が難しい手術を終えるたびに「気持ちいい~!」と体をゆるめにいっていた銭湯。いざ体験すると、体だけではなく、心がほぐれるのを感じた。
見ず知らずの人と小さな浴室で出会う空間では、見栄もプライドも必要ない。そこに暮らす人たちが営む日常に「丸裸で」触れることができる経験は、旅先の時間をあたたかいものに変えてくれる。
歴史と日常が溶け合う一の湯を後にすると、「また来てね!」と山本さんの明るい声が聞こえた。
私はきっとまた、一の湯に足を運んでしまう気がする。