
滝壺に入り、後ろの岩に背をあずけ、足を踏ん張る。落ちてくる水は思っていたよりも優しい。
「のうまくさんまんだ、ばあざらだんかん。のうまくさんまんだ……」
声に出し、唱え続けていると、いつのまにか呼吸が水の強弱と重なっていくのがわかった。風が吹くたびに水量がふっと変わる。滝そのものが呼吸しているようだ。
1分ほど経ち、滝から出る。その瞬間、体がすうっとするのを感じた。
「気持ちいいー!」
清涼飲料水のCMのように空を見上げ、顔にかかった水を拭う。長谷さんから、声が掛かる。
「いける人は何度か挑戦しても大丈夫ですよ」
私の先に滝に入っていたヨガ教室の先生は、3分ほど滝に打たれ続けている。ご真言を唱え、完全に瞑想の世界に入っているように見える。しかも、水量の多い岩の上に登っている。か、かっこいい……。さすが、滝行のベテランだ。
次々と2度目に挑戦している参加者につられ、私も2度目に挑戦する。
今度は、1度目よりも水量の多い岩の上を選ぶ。「のうまくさんまんだ……」とひたすら唱える。今回は、冷たさはほとんど感じない。むしろ心地がよい。「これは余裕だ……」と調子乗りが顔を出す。
3度目。私もあのヨガの先生のように、水量が一番多く、さらに難易度の高い岩の上を陣取ることにする。これで私もベテランと同じ場所に立つのだ、ふははははー! と思ったその瞬間――。
ゴンッ……! 頭の中で星が舞った。
痛っったあ……。
――岩に頭をぶつけたらしい。よく見れば分かる場所に岩があったのに、気がつかなかった。浅はかな自分を見透かされた気がした。
その後3分ほど滝に打たれた私は、不動明王様から「たんこぶ」というお土産をもらった。
滝から出ると、長谷さんから「すごい音がしてたけど大丈夫ですか?」と尋ねられた。驚いた旨を伝えると「邪念が落ちましたか」と言われ、はっとした。そういえば、滝行に来る前に読んだ仏教の本に、「不動明王は右手に持った剣で人々の迷いや煩悩を断ちきり、左手に握った縄で悪心を縛り上げ、正しい道へ引き戻す」と書いてあったことを思い出した。
「頭を打って、きっと厄が落ちましたね」
そう長谷さんに言われ、今年はいい年になるような気がするな、とまた調子のいいことを考えていた。実際に滝行後は、頭も体も軽く感じたのだった。