
これだけ手を打っても、すぐに効果が出たわけではない。意外なことに、追い風になったのは販売を始めて2年目、2020年に起きた新型コロナウイルスの流行だった。
コロナで遠出ができなくなり、いわゆる「三密」も避けなければいけない……となった時に、一部の札幌市民は大通公園に足を向けた。飲食店の多くも時短営業しているか、閉店している時期に、営業中のとうきびワゴン。
それまで「なんでとうきびに300円も……」「観光客が食べるものでしょ……」と思っていた札幌市民が、恐らく最初は特に期待せず、とうきびを購入した。
人は期待値と実感の差に、心動かされる。その味は、想像を超えていたのだろう。口コミで評判が広がり、観光客がまったくいないコロナ禍に、札幌市民のお客さんがどんどん増えていった。そのうち、自宅で楽しむために買いだめをしたり、お土産用にひとりで10本、20本買っていく人も出てきた。
取材の日、偶然にもこの話を裏付けるふたりに出会った。山賀さんが運営するカフェテラスのイスに座り、とうきびを食べていた男女に声をかけると、40年以上札幌に住んでいて、初めてとうきびワゴンに来たという。
「僕らは地元のスーパーでとうきび買って自分で茹でて食べるから、こんな高いお金を出してまで、と思ってたんです。でも食べてみたら、とんでもなくうまい! 観光客がこんだけ食べるのもわかるわ」
「キャンプに行く時、とうきび買っていくんですけど、この味は出せないね。おなかいっぱいなのに食べちゃう」(女性)
「今回一回食べてみたけど、これはたまにいいね、大通公園に来たらまた食べよっかって話してたところ。地元民でまだ食べてない人は、一回食べたほうがいい(笑)」
想像するに、札幌中で同じような会話がされていたに違いない。コロナが落ち着いた2022年6月に開催された「YOSAKOIソーラン祭り」では、札幌市民に加えて観光客も押し寄せ、1本300円のとうきびが1日で約3000本売れた。