
山賀さんに、とうきびワゴンを引き継いだ時、これだけ売れると思っていましたか? と尋ねたら、「もちろん。じゃないと、やりません」と言って、ニヤリと微笑んだ。それどころか、まだまだもっと売れるという。
「札幌市民からは、毎年、今年の生とうきびはいつから? と聞かれます。やっぱり、生とうきびのほうが香りも強いし、食感がぜんぜん違うんですよ。2023年6月に冷凍の在庫が売り切れた時、すぐにハウス栽培の生とうきびを仕入れました。これは農家さんの技術の話になりますが、もし6月頭から10月まで生とうきびを仕入れられるようになったら、いまよりお客さんが増えるでしょう。できることなら4月から生とうきびがいいね」
ただし、いまよりも長い期間、生とうきびを仕入れられるようになったとしても、ワゴンを増やして販路を拡大する気はないそう。「そんなに儲かる商売じゃないんです」。
先述したように、山賀さんは8月に採れたとうきびを冷凍保存している。収穫したものをただ冷凍庫に入れればいいだけではない。
「とうきびは、日が昇ると同時に自分の甘みをエネルギーにして大きく育とうとします。だから、日が昇る前の一番甘い時に採らなきゃいけないんです。しかも、採ったら自分の身を守るために熱を発するんですよ。そうすると甘みが抜けちゃうから、採ったらすぐに0度まで冷やして、その後、皮をむいて瞬間冷凍します。これは技術と設備のある農家さんじゃないとできないので加工賃がかかります。さらにそれを業務用の冷凍庫に保管する料金も必要なので、コストがめちゃくちゃ高いんです」
もし、露地栽培の生とうきびが採れる7月末から8月いっぱいの1カ月半だけとうきびワゴンを営業すれば、いまより価格を下げられるし、儲けも大きくなる。冷凍して4月から10月まで売り続けるために、1本500円に設定せざるを得ないのだ。この価格に対して札幌市民からは「高い」という声があがっていることもあり、毎月10日は「とうきびの日」として1本300円で販売している。
「儲けるためだったら、イベントの仕事だけやっているほうがいい」という山賀さん。そういいながらも、「おいしそうな焼き色がつく」という理由で新しく焼き台を特注したり、屋台のデザインを新しくしたりと工夫を続けている。そこまでしてなぜ、とうきびワゴンを続けるのか? 山賀さんは、おおらかな笑顔でこう言った。
「札幌名物だから、やる人がいなくなったら寂しいんで、そこだけは守りたいなって思っています。札幌名物を残したいんですよ」