
長野県長野市
「忍術を使えば、小柄な体格でも大男を倒せる」そんな話を半信半疑で聞き、私は戸隠流忍術の稽古場を訪ねた。長野・戸隠に室町時代から伝わる忍術は、攻撃するためではなく、情報を持ち帰り生き延びるための知恵だ。
忍者屋敷のからくりを体験し、道場での稽古に参加。戸隠流忍術・宗家を継いだ俳優の筒井巧さんや、米国から忍術修行に来て31年のポール・マーシーさんに話を聞いた。そのうちに私の忍者に対する解像度はぐっと上がり、やがて、忍術は身近な人たちにも必要な知恵なのではという考えに変わっていった。
最寄りのICから【E18】上信越自動車道「信濃町IC」を下車
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9月、横浜にある忍術の稽古場で、私はまるで『北斗の拳』のケンシロウのように太い首を持つ屈強な男性と向かい合っていた。長年、格闘技をされてきたとのことで、一目見ただけで鍛え抜かれた様子が伝わってくる。
「そうです、そこでふわっと力を抜いて……はい、今です。お辞儀するように体を使ってください」
男性に指示されたとおりに体重をかけると、男性は床に座り込んでしまった。
「効きますね。やられました……」と男性。思わず「す、すみません、大丈夫ですか?」と私は声をかけた。
いったいなにが起こったのだろう。
私が相手の手首の関節を捻り、体の軸がつながる場所で相手の肘に体重をかけた。それだけで体に力が入らなくなり、すとんと床に膝をついてしまうのだという。
今回、稽古で体験したのは「戸隠流忍術」。
長野県の戸隠を発祥とする忍術の流派だ。忍者にとって何より重要なのは、「情報を持ち帰り生き延びる」こと。そのため、攻撃よりも防御を重んじ、相手を翻弄し煙に巻くために術を駆使する。古武術を応用した「骨法術」や「骨指術」など、武器を使わずに体の使い方で相手のバランスを崩す技も、戸隠流忍術の大きな特徴のひとつだ。
だからこそ、体格や筋力に自信がない人でも実践に役立つ技を身につけることができるという。
ただ、何度繰り返してみても「どうしてそうなるのか、まったくわからない……」という狐につままれたような気持ちが残り、その日の体験稽古は終わった。
それもそのはず。戸隠流忍術の世界は奥深く、30年以上修行を続ける人も多いという。