未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
291

山形県山形市

蔵王の稜線を望む体育館に響く笑い声。
山形市南部の児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」は、障がいの有無や世代を越え、人と人が混ざり合う遊び場だ。
ここに流れるあたたかい空気を支えているのは、館長の優しいまなざしと、「目の前のひとりの笑顔」にとことん向き合う姿勢。
娘と駆け回りながら、私も自分の中の"子ども"と再会する。
――包み込まれるって、きっとこういうことだ。

文= ロマーノ尚美
写真= ロマーノ尚美(表記があるもの以外すべて)
未知の細道 No.291 |27 October 2025
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山形県山形市

最寄りのICから【E13】東北中央自動車道「山形上山IC」を下車

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#1体育館の角から見上げるふるさとの山々

「ちょっと、ここに座ってみていただけますか」

穏やかな声に促されて、広々とした体育館の角に腰を下ろす。床に直接座るなんて、いつ以来だろう。スカートの裾を気にしつつ横座りして視線を上げると、明るい窓の向こうに、風景画のような山の輪郭が広がっていた。

山形は、文字通り山に囲まれた街だ。物心ついたときから、それは当たり前の風景だった。けれど、建物のなかから、こんなふうに横に広がる山並みを眺めたことって、今まであっただろうか。

「蔵王連峰の稜線だけが、ずーっと見える設計なんです。ここからじゃないと、なかなか気づかないんですよ」

私の隣で微笑んだのは、山形市南部児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」(以下コパル)館長の色部(いろべ)正俊さん。「地元に住んでいて、蔵王が綺麗だと意識したことはないんですけどね」と照れ笑いを浮かべるが、視察のお客様をこの体育館の特等席へ、何百回も案内してきたという。

「夢中で遊んでいるなかで、子どもたちが山形の自然の素晴らしさを感じられる仕掛けになっています」

なるほど、と思う。子どもの目線になるってこういうことか。子どもには、景色はこんな風に見えているんだ。

大きく横に広がった窓の向こうには、蔵王連峰の稜線が広がっている。
(画像提供:シェルターインクルーシブプレイス コパル)

柔らかな自然光、天井や床に使われた木材のぬくもり、角の少ない曲線だらけの空間。なんだろう。屋内にいながら、まるで外で遊んでいるような気分になる。建物と自然が溶け合っているようだ。

「そう、その通りです!」と、私の感想に色部さんは嬉しそうに目じりを下げた。「自然があってコパルがある。コパルがあることで、自然が引き立つ。そういう一体感を目指したんです」

体育館と大型遊戯場を結ぶスロープの長さは210m。
車いすの子の通路であり、元気な子どもたちの坂道でもある。

児童遊戯施設というと、大きな遊具で子どもだけが遊んでいる場所を思い浮かべるのではないだろうか。「どちらがいいとか悪いということではなく」と前置きしたうえで、色部さんは続ける。

「子ども専用の遊具などがあると、親子が一緒に遊べないことがあります。親はただ見守るか、スマートフォンに目を落とすしかない。でも、コパルにはあえて目を引く遊具を置いていません。そうすると、なにが起きると思いますか」

その答えは、コパルに足を踏み入れた瞬間にわかっていた。ここでは、子どもだけじゃなく大人も裸足で駆け回っている。大人が「付き添い」ではなく、子どもと対等な遊び仲間になっているのだ。

大人たちが忘れていた童心を取り戻し、大人と子どもの境界が溶けている場所。それが、私がコパルに抱いた第一印象だった。

「子どもにとって、お父さんやお母さんが笑顔で夢中に遊ぶ姿は、なによりも嬉しくて、安心できるものだと思います。親にとっても、忙しい日々のなかで子どもとここでゆっくり過ごすことで、『大変だけれど、子育てって楽しいな』と感じられる。家とは違う時間を親子で過ごせる。だから、また来たくなる。コパルはそういう『癒しとときめきの時間』を提供できる場所だと思っています」

色部さんの声ににじむ楽しそうな響きを聴きながら、私は心がどんどん弾んでいくのを感じた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。