
転職したものの、皮の活用についてはゼロからのスタート。毛皮は作れても、数やクオリティ、需要を考えると現実的ではない。
皮の活用法を模索するなかで出会ったのが、東京の革小物製作会社の経営者だった。相手もちょうどジビエの皮に興味を持っていて、話し合いの末、週の半分は出向という形で修行させてもらえることになった。
大阪谷さんは、革製品ができるまでの一連の流れを学びつつ、実際に革の裁断も担当した。さらに、「キョンの皮に興味を持っているタンナー(皮をなめして革に加工する業者)さんがいる」と聞き、兵庫県まで足を運んだ。
ジビエの皮を扱うタンナーは、日本全国でも数えるほどしかないという。家畜と違い、野生動物のジビエの皮は脂肪の厚みや大きさが1枚1枚異なる。手作業が発生しコストが増えるため、対応してくれる業者が少ないそうだ。
加えて、大阪谷さんが求めていたのは、なめす時に「クロム」を使わないこと。革の8割以上は、「3価クロム」という金属を使ってなめしているといわれる。3価クロムには危険性はないものの、ある条件下で焼却処分をすると「6価クロム」という毒物になることがある。
「社会課題を解決する取り組みなのに、別の環境問題が生まれてしまうのはなるべく避けたくて。少しでも環境に負荷をかけない方法を選びたかったんです」
見学をしたタンナーは、クロムを使わない工場だったこと、天然染色をしていることが決め手となって、契約を結んだ。ところが、なめす過程でも試行錯誤が続いた。
「私たちもタンナーさんもキョンの皮を扱うのが初めてだったので、ノウハウがあまりなくて。キョン皮らしい柔らかさがうまく出なかったり、腐った皮を送ってしまって加工したら溶けてしまったり、いろいろ失敗もありましたね。費用もかさむので、産業廃棄物にしたほうがマシ、という状況でした」
産業廃棄物としてまとめて廃棄すれば、月に5万円程度で済むところが、1枚の革をなめすごとに1万円ほどがかかる。30枚のレザーを作ろうと思ったら30万円もかかってしまうのだ。それに作った製品がどれくらいの価格で売れて、1枚の革をどのくらいのスパンで使い切ることができるのかも当初はわからなかった。最初は1年かかっても使いきれないこともあったという。
さらに、革にした後も問題にぶつかった。
「昔からの職人さんも使ったことがないような柔らかすぎる革で、途中で匙を投げられることも何度もありました」
それでも大阪谷さんは可能性を探り続け、ある時、東京で開催されていた産業フェアで、ひとりの革職人に声をかけた。「ジビエに興味がある」と聞いて意気投合。しかも、たまたま自宅が近かった。興味があるという毛皮作りを教え、「キョン革でこんな物を作ってみたい」と相談すると、快く試作品を作ってくれた。
それ以降、ほとんどの製品をその職人さんが担ってくれたそうだ。大阪谷さん自身で作りたいものを作れるようになった今でも、半分ほどを分担して製作してもらっている。

