未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
313

里山の風景を守る小さな工房を訪ねて 革小物を作りを通して、キョンの一生に思いを馳せる

文= 竹田りな
写真= 竹田りな
未知の細道 No.313 |25 September 2026
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#9いざ、キョン革コインケースづくりを体験

一通り取材を終え、いよいよコインケースづくりを体験させてもらうことにした。

裁断機で型抜きされた革のなかから、自分の好みのものを選ぶ。クマやシカにイノシシ、そしてキョン。革によって手触りがぜんぜん違う。

コインケース用に型抜きされた革たち。

「触って気持ちいいと感じるものは、だいたいキョンですね」

同じキョン革でも染色方法で色が違う。あぁ、悩ましい......! たっぷり悩んで深い緑色の革に決めた。ポイントは目立つところにある傷だった。

「いいところに傷がありますよね。キョンのオスは角と牙があって、オス同士で喧嘩した傷が皮に残るんです。革にするときにそのまま生かしています。その子がどういう生き方をしていたのか、その一生に思いを馳せることができるのも、また野生獣革の楽しみ方のひとつです」

ボタンは右から、真鍮、アンティーク、シルバー、ブラック。

革の次は、真鍮、アンティーク、シルバー、ブラックの4種類からボタンを選ぶ。4色どれもいい色でまた悩ましい。私はアンティークに決めた。コインケースは、ボタンを2つ取り付けると完成するシンプルなものだ。

まず、革の穴を開けたい部分にポンチ(先端に丸く穴が開いている細長い工具)を置き、トンカチで叩く。キョンの革は柔らかく穴が開きやすいそうだ。でもトンカチで叩く力加減が難しく、おっかなびっくりやっていると、なかなか開かない。

「ちょっとやってみますね」

革の上にポンチを立ててトンカチで叩き、穴を開ける。

大阪谷さんがトンカチ叩くと、きちんと芯に当たっているような力強い音がして、すぐに穴が開いた。こんなにも違うものかと驚いた。

次は、穴にボタンを取り付ける。台座の上にボタンのパーツ、革、ワッシャー、もうひとつのボタンのパーツの順番で載せる。

穴の空いた台座の上に、ボタンと革とワッシャーを載せ、さらにボタンを重ねる。

キョンの革は柔らかく、ボタンの開け閉めをすると伸びてしまうので、ボタンと革の間にイノシシ革で作ったワッシャーを挟むのだ。

イノシシ革で作ったワッシャー。ワッシャーを革で作る発想に驚く。

ちなみにコインを入れると重くなりがちで革が伸びてしまうこともあるので、コインを入れるなら硬くて形を保ってくれるイノシシやクマ革がおすすめらしい。キョン革でつくる場合は、アクセサリーなど軽い小物を入れるのが向いているそうだ。

棒をさしてボタンを固定し、その棒をトンカチで叩いてボタンの金具を潰していく。すると、革にボタンがくっついた! あとはこの作業を繰り返す。

トンカチでボタンの金具の部分を潰し、固定する。また手伝ってもらってしまった……!

最後は、イニシャルや模様など、お好みの型押しをして完成! 革を選ぶところから完成まで、15分ほどだった。

完成したコインケースと使用した道具たち。作業台に敷かれたマットには、たくさんの跡がついていた。

私は帰宅してすぐ、「ねぇ見てよ!」と作ったコインケースを夫に見せた。

夫はコインケースを受け取り、さまざまな角度から一通り眺めた後、鼻を近づけた。

「あぁ、いい匂い。革の匂いって好きなんだよね」

その言葉につられてやってきた5歳の娘も、鼻を近づける。しかめっつらをし、「えぇ、へんなにおい?」と言いながら離れていく様子に思わず笑ってしまった。

夫から受け取ったコインケースを嗅いでみると、工房に入った時と同じ匂いがした。

このキョンは、どんなふうに生きたのだろう。私はコインケースに残った傷を眺めた。

案内人のようなイノシシのイラストがかわいい。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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