
千葉県館山市
クマがいない千葉県で、急増している生き物がいる。中型犬サイズでシカに似た「キョン」だ。1960~80年代に勝浦市の観光施設から脱走したことをきっかけに千葉県南部で増え続け、2024年の推定生息数は約9万4000頭。田畑の農作物を食い荒らすなど、深刻な被害をもたらしているという。調べてみると、駆除されたキョンの革を使って小物を作る体験ができる工房が館山市にあるらしい。キョンの革に触れてみたくて、私はその工房を訪ねた。
最寄りのICから【E14】富津館山道路「富浦IC」を下車
最寄りのICから【E14】富津館山道路「富浦IC」を下車
2026年8月のある平日、私は房総半島の海沿いのまち、館山を訪れた。その日はあいにくどんよりとした曇り空で、海岸に人の姿はまばらだった。
目指す工房「Atelier lab. 伝右衛門製作所」は、真っ白な外壁にガラス張りの大きな窓が目立つ「YANE TATEYAMA」の一角にある。
建物のメインエントランスではなく、建物横にある秘密基地につながりそうな細い道を進むと、工房が見えてきた。
工房の入口の扉には、イノシシのイラストが描かれている。ガラス越しになかを覗くと、革小物や毛皮が並んでいてまるでセレクトショップのようだ。
少し緊張しながら扉を開けると、もわっとした革の匂いに包まれた。生命力を感じる密度の濃い匂いに、一瞬たじろぐ。
「こんにちは」
穏やかな笑顔で迎えてくれたのは、大阪谷未久さん。この工房を営む革職人だ。
柔らかな物腰の大阪谷さんと、先ほどまで感じた革の匂い。その組み合わせがなんだか不思議な気がした。
大阪谷さんは、なぜ革職人になったのだろう。