未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
313

里山の風景を守る小さな工房を訪ねて 革小物を作りを通して、キョンの一生に思いを馳せる

文= 竹田りな
写真= 竹田りな
未知の細道 No.313 |25 September 2026
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#7終わりが決まっているビジネス

独立後は、貯金を切り崩しながらのスタートだった。オーナーもカツカツの状況を理解し、家賃の支払いを待ってくれた。そのうちに少しずつ売り上げも増え、B to Bや個人からの受注、店舗での小物製作の体験も増えている。

現在、一番人気の商品は国産キョンのセームクロスだ。キョンの革繊維は髪の毛の10万分の1以下といわれ、お手入れするものを傷つけずに汚れを取ることができる。油分も含んでおり、艶を与えることもできるそうだ。

また、洗うことで繰り返し使えるため、環境にも優しい。メガネやカメラなどのレンズのほか、楽器や宝石などを拭くのにも使える。用途が限定されないため、ノベルティーなどにも人気だ。

さまざまなサイズがあるキョンのセームクロス。購入して使ってみると、カメラのレンズがピッカピカになった。

現在、工房で1年間に利用しているキョン皮はおよそ300頭分。一方で、年間の捕獲頭数は1万頭近くに及ぶ。大阪谷さんは、革の活用を増やしていきたいと考えている一方で、「キョン革を拡大型のビジネスにしてはいけない」と話す。

「キョンは特定外来生物で根絶すべきものなのに、それが生み出すお金だけで生きる人間が増えると、増やそうとする人が現れるリスクにつながります。身近な例でいうと、ブラックバスもそうですよね。でもだからといって、お金をかけて捕獲してすべてをゴミとして捨ててしまうのも正解とは思えない。県や市などの行政や現場と連携し、捕獲の状況に合わせて対応していくべきで、絶対に増やすことを目的にしてはいけないと思うんです」

伝右衛門製作所では、キョン革を利用するにあたって3つのルールを決めている。駆除個体のみを利用すること、活用する上で得た資金の一部は駆除のために還元すること、根絶を達成した場合には、その革の活用を終えること、だ。

「だからこそ、うちではキョンだけでなくイノシシや鹿などの革も使うし、竹や藁など、革以外の素材でもものづくりやワークショップを行っています。目指しているのは、地域の課題から出てくるものを、資源に変えるものづくりです」

  • 100年前のドイツ製の薬箪笥。
  • 中には、木の枝を切ったものや松ぼっくりなど、里山から取れる素材が入っている。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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