
独立後は、貯金を切り崩しながらのスタートだった。オーナーもカツカツの状況を理解し、家賃の支払いを待ってくれた。そのうちに少しずつ売り上げも増え、B to Bや個人からの受注、店舗での小物製作の体験も増えている。
現在、一番人気の商品は国産キョンのセームクロスだ。キョンの革繊維は髪の毛の10万分の1以下といわれ、お手入れするものを傷つけずに汚れを取ることができる。油分も含んでおり、艶を与えることもできるそうだ。
また、洗うことで繰り返し使えるため、環境にも優しい。メガネやカメラなどのレンズのほか、楽器や宝石などを拭くのにも使える。用途が限定されないため、ノベルティーなどにも人気だ。
現在、工房で1年間に利用しているキョン皮はおよそ300頭分。一方で、年間の捕獲頭数は1万頭近くに及ぶ。大阪谷さんは、革の活用を増やしていきたいと考えている一方で、「キョン革を拡大型のビジネスにしてはいけない」と話す。
「キョンは特定外来生物で根絶すべきものなのに、それが生み出すお金だけで生きる人間が増えると、増やそうとする人が現れるリスクにつながります。身近な例でいうと、ブラックバスもそうですよね。でもだからといって、お金をかけて捕獲してすべてをゴミとして捨ててしまうのも正解とは思えない。県や市などの行政や現場と連携し、捕獲の状況に合わせて対応していくべきで、絶対に増やすことを目的にしてはいけないと思うんです」
伝右衛門製作所では、キョン革を利用するにあたって3つのルールを決めている。駆除個体のみを利用すること、活用する上で得た資金の一部は駆除のために還元すること、根絶を達成した場合には、その革の活用を終えること、だ。
「だからこそ、うちではキョンだけでなくイノシシや鹿などの革も使うし、竹や藁など、革以外の素材でもものづくりやワークショップを行っています。目指しているのは、地域の課題から出てくるものを、資源に変えるものづくりです」

