
ふたりはどのようにして、音楽業界で働くことになったのだろう?
「私は19歳の時に、地元の栃木で本やCDレンタルの複合ショップでバイトをしていた従姉が辞めるというので、代わりに入ったのがきっかけです。もともと中学生の頃から音楽が好きだったので、CD屋なら働いてみようかな、と」というのは由紀子さん。そこでいきなり「輸入版の仕入れをぜんぶやって!と任されしまったんです。その頃はネットもないから、本を買って調べて。タワーレコードとも取引があったから、電話したり」
由紀子さんにとってそれは大変である以上に、かなり楽しい仕事だった。すっかりこの仕事にハマってしまった由紀子さんはいくつかのCDショップのバイトを経て、2003年に栃木に進出してきた、大手CDショップで働くことになったのだ。
橋本さんの辿ってきた道も、また面白い。
「仙台出身の僕は、東京で理系の大学に通っていました。でもどうしても理系企業で働くことが想像できなくて。やっぱり好きな音楽のことで働きたいと思って」
就職活動では、音楽レーベルメーカーの採用試験だけ受けることに決めた。
しかし面接にいく先々で「理系の学生がなんでこんなところにいるの? 真面目に就職活動しなよ」と言われてしまう。就職留年して再トライするも、音楽業界は叩き上げの中途採用が多く、狭き門の新卒で入社すること自体が非常に難しいということも、だんだんわかってきた。
しかし「俺は音楽業界には行けないのか……?」と悩んでいた時に、バイト雑誌で大手CDショップのバイト募集を発見し、応募することにした。1999年のことである。まずは経験者になって中途採用を狙おう、ということと、「この会社なら、仕事でレーベルメーカーと接触できるだろう」という計算もあった。
「周りの同級生たちは、みな理系の大企業に勤めている。そう思って、必死に勉強しました。それまで音楽は好きだけど、全体を知っているわけじゃなかったんですよ。 クラシックもわからなかったから、アーティスト名をぜんぶメモして覚えて、ということをやっていました。 それで、やっと仕入れ担当者になったの。 バイトなのに」
やがてバイトから正社員として採用され、全国各地に転勤して新店舗の立ち上げなどを任されるようになった。そうしているうちに橋本さんは、実はCDショップこそが自分のやりたいことなのではないかと気づき始めた。憧れていた大手レーベルメーカーでは、自分の好きな仕事だけができるわけではないのも、わかってきた。
一方、この職場では、お客さんと接し、時代の空気を読みながら、商品を仕入れることができる。ポップでも、アイドルでもアニメ音楽でも、なにが爆発的に売れるのかを自分の勘で当てて、在庫を展開できるようになっていた。提案が目の前で結果になる、これは面白い! 栃木の店舗にいた由紀子さんとも出会い、のちにふたりは結婚。由紀子さんもまた、店長を任されるようになっていた。
しかしふたりがこの仕事にやりがいを見出していくのと反比例するかのように、CDは売れない時代へと突入していく。