
手探りのスタートから、店が浮上するきっかけとなったのは、開店の翌年に開いたライブイベントだ。地域のカフェや花屋、雑貨屋など70店舗をも巻きこんでマーケットも開き、2日間で700人を集めた。これを機に、多くの人に知られるようになった。
もうひとつの追い風はメディアからの取材だ。 「たくさんの取材を受けました。CD屋がどんどん潰れて CDが売れないピークの時だったからね。 『なんでこんな時代に店を出すのか?!』っていう取材に対して、ぜんぶ答えました」
「ネットで音楽を聴く時代、自力で新しい音楽に出会う機会は減り、ずっと同じような曲や昔の曲を聴くようになるだろう。そうなった時に『あの店にいけば、絶対に新しい音楽が見つかる』という場所が、音楽好きにとって必要になる。ここはそういう店なんだ、といつも答えていました」と橋本さんは続けた。
そう、more recordsのコンセプトは、「音楽に出会える店」である。知っている曲を聴きたいだけなら、今はインターネットですぐに探せる。わざわざ店まで足を運ばなくても、音楽を買い、聴くことができる時代だ。
「それなら逆に、店に行かないとわからない音楽、店に来なければ出会えない音楽を扱おうと思ったんです。音楽そのもののよさを提案する、インディー・レーベルに特化した店にしようって」と橋本さん。それは、大手ショップにいた頃には、やりたくてもできなかったことでもあった。
とはいえ、極端にマニアックな音楽を並べているわけではない。知らないアーティストでも、聴けばすっとその世界に入っていけるものを選んでいる。由紀子さんの言葉を借りれば、「耳なじみのいい音楽」である。
この強力なコンセプトは、メディアからの取材もあいまって、店の経営を軌道に乗せ、やがて音楽業界からも注目されるようになった。例えばフランス系カナダ人アーティストの「ghostly kissies」。ふたりはその美しいPVを見てこれは絶対に売れると思い、返品できない輸入盤を思い切って大量に仕入れた。
「そしたらたくさんのお客さんが買ってくれて、やっぱりね! と」
後には、ライブイベント会社の担当者から電話で問い合わせがあった。「ghostly kissies」がもしイベント出演するなら、どのくらいの集客が見込めそうか? という相談だった。インディーズの「ghostly kissies」を大々的に取り上げている店は、日本ではここだけだったからだ。結果、「ghostly kissies」の来日公演は大盛況で幕を閉じた。
他にも取引のない有名レーベルから突然連絡があり、この店で女性アーティストのライブをしたこともある。なぜならそのアーティストがmore records が扱う音楽が好きだったからである。メジャー音楽業界も、この店のことを参考にしているということがわかる、面白いエピソードである。