
店で客と話すことも、ふたりの大切な仕事のひとつだ。目当ての作品を決めずに訪れ、「こんな音楽を聴きたい」と相談する人も多いという。「わからないから、お勧めしてほしいと言われると、やっぱり嬉しい。それがぴたりとはまって、あとで『あれ、よかったですよ』と言ってもらえると、店の存在意義になるのかなと思います」と橋本さんは話す。 お客さんは棚いっぱいのCDを見渡し、気になった一枚を手に取り、試聴する。今日はこんなCDを探しています、と言って店に入ってきたのに、全く違うジャンルのCDを買って帰るお客さんも少なくない。いわゆる「ジャケ買い」も、ここではまだ生きている。形のない配信が音楽に触れる入口となった今だからこそ、気に入った作品は「モノ」として持ち、時間をかけて聴く。すてきなデザインのCDジャケットが平台に所狭しと並べられているのを見れば、ふたりが大切にしているのは、そんな音楽とのつき合い方なのだとわかる。
お客さんとの会話が、いつの間にか日々の暮らしの話へ移っていくこともある。「音楽の以外の話だけして帰っていくお客さんもたくさんいますね」と橋本さん。ここはCDショップでありながら、誰かとなにかを語れる場所でもあるのだ。実は店名の「more records」には、「CDを買うこと以上のなにかを持ち帰ってほしい」という思いが込められているのだという。
大宮に店を構えた判断も当たった。都内や神奈川から訪れる人に加え、新幹線が停車するため、北関東や福島、仙台など東北からやって来る客も多い。出張やライブの途中に立ち寄る人もいるという。「遠いところでは、沖縄から来てくれる常連さんもいますね」と橋本さん。ここでしか出会えないなにかを求めて、人々は距離を越えてこの店へやって来るのだろう。