これからの目標を尋ねると、ふたりの答えはとてもシンプルだった。
「店をなくさないことです」
CDを買う人は確かに減った。それでも、配信だけではなく、物として手元に置き、時間をかけて音楽を聴きたい人たちが訪ねていける場所を、小さくても残しておきたいのだという。CD定期便も、実際の店があり、そこでふたりが音楽を選び続けているからこそ、顔の見えない遠くのお客さんにも信頼してもらえるのだろう。
ふたりが残したいのは、自分たちの店だけではない。新譜のCDを紹介し、売る店がなくなれば、新しい作品を世に送り出すレーベルやアーティストを支える流れも細くなってしまう。名盤が受け継がれていくことも大切だが、CDを通して次々に生まれる新しい音楽との出会いを聴き手へ届けることもまた、CDショップの重要な役割なのだ。
more recordsの主な客層は30代後半から40代半ばがメインだが、若い客もちらほらやってくる。ネットで音楽を聴いてきた10代が、「これからCDプレーヤーを買いたい」と話すこともあるという。子育てが一段落して、もう一度CDを聴き始める人もいる。親が家でかけていた音楽を子どもが好きになるかもしれない。そうやって音楽を聴くことを、次の世代へ渡せられるか、残せていけるどうか。「わたしたち世代には、そんな使命感もありますよね」と由紀子さん。
そうそう、私もここで新しい2枚のCDに出会った。1枚目は橋本さんが私の夫に選んでくれた、モンゴル人アーティストの音楽。きっとこれなら旦那さんも聞いたことがないだろうし、気にいるだろう、選んでくれたものだ。印象的な瞳の女性アーティストのジャケットは、入り口すぐそばの平台にあり、実は私も気になっていた。家に帰って夫とふたりで聞くと、瞳の印象そのままの美しい声で、私たちはとても気に入っている。
もう1枚は、「今月のオススメ」コーナーの1番目に置いてあった、グリーンのジャケットのCD。迷ったらまずここから聞けばいい、というふたりの言葉を信じて、それを一曲目から順に聞いた。最初に響くドーンとした音。なぜかなつかしい、ノリのいいメロディ。なんだろう、これ。大好きだ! 初めて聞くのに、不思議だった。由紀子さんにそう感想を伝えると、「耳馴染みがいいですよね」とにっこりされた。
私が大学生の頃、世界中で流行っていて自分も大好きだったイギリスのpopバンド「Blur」の、現在のディレクターでもあるアーティストなのだそうだ。だからこんなに懐かしいのか! これをここに置いておいたら、誰でも買いたくなる、そんな音楽なのだ。「うわ。今、私はまんまとふたりのセレクションにハマっている!」と聴きながら思った。
橋本さんはこうも続けた。
「このアーティストは白血病にかかって生死が危うかった時に、病室でこのCDを作ったんだよね。いまは復活して元気にしているけど」
だからなのだろうか、力強い、生気があふれる音楽でもあった。
音楽そのものは、今やどこにいてもすぐに聴ける。それでも、まだ知らない音楽との出会いには、こんなにも鮮やかだ。大宮のこの小さな店は、CD文化の続きを静かに築いている。more recordsで購入したCDを今も聴きながら、そう思った。