多津衛民芸館は、生まれて間もなかった長女をベビーカーにのせてお散歩するのにちょうどよい距離にあった。
「扉をあけると、(当時館長だった)徹さんがカウンターにいて『どうぞどうぞ』って迎えてくれて。普通民芸館に行くと、モノが中心で、展示品にさわっちゃいけないとかしゃべっちゃいけないっていうのが多いと思うんだけど、ここでは『さわっていいよ』って言われるし、むしろ『おしゃべりしてください』みたいな感じで、特別な場所っぽくなかったんですよ。すごく好きな場所でした」
ロジャーさんが初めて民芸館を訪れたとき、バーナード・リーチのコーナーがあったことに驚いたという。博士論文でリーチについて言及していたのだ。さらに、小林多津衛が思想的に影響を受けたというガンジーの肖像画が展示されていたことにも縁を感じた。一人ひとりの意識のありようから「平和」を考え続けていたロジャーさんにとって、非暴力による平和運動を貫いたガンジーはその実践者であり「大先生」だった。
散歩ついでに多津衛民芸館を度々訪れるようになったロジャーさんに理事就任の声がかかったのは、2019年のことだ。
「民芸館をつくった方たちの思いは深いものがあると思うんですよ。それを次世代に委ねるっていうのはなかなか大変なこと。長年運営してきた先輩たちの、挑戦の決断だったんだと思います」
ロジャーさんは2020年から多津衛民芸館の理事に就任。同じタイミングで、他にもカメラマンや木工作家、音楽家やダンサーなど、同世代のメンバーが理事に就いた。