手仕事には、個性やその地域の風土が現れる。「ものづくりを通じて心を通わせることができる」と説いた小林の教えの真意は、それが個人を尊重し、ひいては平和につながるというものだ。
「東京でキュレーションの仕事をやってる時には、平和を考えることから距離を感じていた時期もあったけど、民芸館を支える人たちと関わることになって、実はずっと『平和ってなんだろう』っていうことを問うてきた自分がいたんだって思うことができました」
これまで企画に関わった展覧会はすべて、学生時代から追求していた「平和とはなんだろう」という問いが根底に流れていた。巡り巡ってたどり着いた民芸館が「平和と手仕事」を掲げていたのは偶然ではないだろう。
ロジャーさんが「平和」を考える時に思い浮かべる「戦争」には様々なレイヤーが含まれる。今現在もガザやウクライナで起きているような、国家対国家が武器を持って争う戦争もあれば、家庭で起きている暴力もある種の戦いだ。自然界と人間の間で起きている気候変動も、経済的な利益を過度に追求する人間の”暴力”による戦争だとロジャーさんは言う。
半径15キロ圏内のつくり手の作品を集めた「生活の輪展」は、世界が直面している気候危機に対し、暮らしのあり方を考え直すきっかけになればという思いもあった。
「『平和と手仕事』という冠は、モノが中心になりがちな王道民藝とは少し違う民藝のありかたを見せてくれます。AIが台頭する時代において、この地域で生きていく自分は、一体この手でなにをつくれるんだろうっていうことを考えさせられるよね。ここに来館してくれる方たちにも、そういうことを想像してもらうことが大事なのかなと思います」
理事が交代してから記録をつけ始めた通常来館者数(イベント来場者数を除く)は年々増え続け、ロジャーさんが館長に就任した2024年度は、前年のおよそ5倍の425名と、過去最高となった。
私はこの手でなにをつくれるんだろう――。
まんまと多津衛民芸館に「アクティベート」された私にとって、民芸館はもはや「お年寄りが昔を懐かしんでコレクションするもの」を展示する場所ではない。私たちがつくり、集い、自分たちの手で暮らしをかたちづくっていくための拠り所だ。
「平和って、上からは作れないんですよ。どんなに国家が平和ですっていっても、本当の平和かどうかはビッグクエスチョンマーク。平和っていうのは、私たち一人ひとりの手仕事から始まるんじゃないかな、と私は解釈しています」