
さて田那辺さんに連れられて、大子町が運営する奥久慈茶の里公園にやってきた。その一角に「和紙人形美術館 山岡草常設館」はある。
展示室に入ると、写真で見たような作品がずらりと並んでいる。それが「わらべ」と呼ばれている作品シリーズだ。極端にデフォルメされた大きな丸い顔や手。落ち着いた美しい色合いの紙を何枚も重ねて形を作ったのであろう、ふっくらとした着物。このボリュームとは対照的に、見えないほど細く小さく描かれた目、鼻、口が、なんとも微笑ましい。昔の日本にいたかわいらしい子どもたちの姿だ。
と言っても自分は、そんな子どもたちを見たことはないはずなのだが、ああ、これが昔の日本の子どもの姿なんだよね、と思わせるなにかが独創的な丸みのなかにぎゅっと詰まっているようだ。
写真集にはなかった、なにがなんだかまったく見当もつかない、奇妙な形の作品もあった。それが「日本の神々」という作品シリーズだ。人形だと言われなければ、誰もそう思わないに違いない。無数の和紙をひねりあげ、絞り、絡ませ、縛り上げて作った、かつて見たことがない造形だ。よく目を凝らすと、造形全体の1/1000にも満たない程の小さな顔が、埋もれている。色も黒や茶色、灰色が全すべて混じり合ったような、なんともいえない色で形作られているものが多い。
これらの作品について言えることは、すべて山岡草が大子の山奥で、ひとりで作ったということ。福井などで買い付けた和紙を自ら草木染めした、ということ以外は誰もその作り方を知らない。どこにも類似するような造形がなく、一体どうやってこのような形が構成されているか、いまだにわからないのだ。