未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
289

100年以上使えて、3年で土に還る―― 信州、大町で生まれる山ぶどう籠バッグ、世界へ羽ばたく

文= 柳澤聖子
写真= 柳澤聖子(表記があるもの以外すべて)
未知の細道 No.289 |25 September 2025
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#3100年以上使えて、3年で土に還る。育てる籠

「できれば遭いたくはないですけど、毎年1度はクマを見ますね」と船生さん。
一度は、採集後に休憩していたところ、背後5メートル先にいるクマと目が合ったという。船生さんはクマから目を離さないようにしながら、息をひそめて静かに後ずさり、一定の距離をとった後に全力で走って逃げた。

「僕らはクマの生息地にお邪魔しているので、森に入るときは、山火事に十分注意しながら20メートルごとに爆竹を鳴らして進みます。火薬のにおいをクマは本能的に嫌がる習性があります」

伐採する際は、山ぶどうの営みを絶やさないように、根元から切り倒すことはない。命綱をつけ数十メートル以上の高さに登り、他の木に絡みついている山ぶどうの蔓を丁寧にほぐして可能な限り上の方で切る。 写真/山葡萄籠工房

そこまで命がけとは知らず、船生さんの話に圧倒されているうちに、車は工房についた。工房の2階には山ぶどう籠バッグがずらりと並ぶ。

使い込むほどに艶が増して深い飴色に変化していくのも、山ぶどう籠の魅力のひとつだ。

「100年前に作られた山ぶどう籠を見たことがありますが、まだまだ使えそうでした。たぶん200年は使えるのではないでしょうか。丈夫でよく持ちますが、不思議なことに土の上に置いておくと3年で跡形もなくなるんです」

船生さんが自宅の裏庭で試してみたところ、1年で底が崩れ、3年後には破片しか残らなかったそうだ。竹なら分解に7年以上かかると言われるが、山ぶどうはわずか3年。「山ぶどうは、究極にエコな素材」と船生さんは語る。

左は編んだばかりの籠バッグ。右は5年経ち飴色に経年変化したようす。 写真/山葡萄籠工房
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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