
「できれば遭いたくはないですけど、毎年1度はクマを見ますね」と船生さん。
一度は、採集後に休憩していたところ、背後5メートル先にいるクマと目が合ったという。船生さんはクマから目を離さないようにしながら、息をひそめて静かに後ずさり、一定の距離をとった後に全力で走って逃げた。
「僕らはクマの生息地にお邪魔しているので、森に入るときは、山火事に十分注意しながら20メートルごとに爆竹を鳴らして進みます。火薬のにおいをクマは本能的に嫌がる習性があります」
そこまで命がけとは知らず、船生さんの話に圧倒されているうちに、車は工房についた。工房の2階には山ぶどう籠バッグがずらりと並ぶ。
使い込むほどに艶が増して深い飴色に変化していくのも、山ぶどう籠の魅力のひとつだ。
「100年前に作られた山ぶどう籠を見たことがありますが、まだまだ使えそうでした。たぶん200年は使えるのではないでしょうか。丈夫でよく持ちますが、不思議なことに土の上に置いておくと3年で跡形もなくなるんです」
船生さんが自宅の裏庭で試してみたところ、1年で底が崩れ、3年後には破片しか残らなかったそうだ。竹なら分解に7年以上かかると言われるが、山ぶどうはわずか3年。「山ぶどうは、究極にエコな素材」と船生さんは語る。