
棚に並ぶ籠バッグのなかに、山ぶどう以外の植物を編み併せた目を引く作品があった。
「これはアパレルブランドさんの製品として作っているものです。信州の山奥の工房ですが、ありがたいことに海外のブランドさんからも声をかけていただくようになりました」
詳しくは語れないが、社名を聞くと誰もが知る高級ブランドだった。さらに別のトップブランドとも契約を結んでいるという。どちらも世界のファッションを牽引するブランドだ。
小さな工房が世界から注目を集めるきっかけになったのが、2023年に初出展したフランス・パリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」。インテリアやライフスタイル分野において世界的に権威がある展示会で来場者は約7万人、出展社は2500社以上にのぼる。
コロナ禍のなか、日本以外にも販路を広げられないかと世界中の権威のある展示会についてリサーチしたところ、中小企業の海外展開を支援する日本貿易振興機構(JETRO)が「メゾン・エ・オブジェ」の出展枠を持つという情報を手に入れた。思い切ってJETROに電話をかけ相談したところ、「おもしろいですね」と評価を受けたことで、出展が叶った。さらにJETROパリ本部の支援で市場調査を行ったところ、フランスにはラフィアなど植物素材を使ったマルシェバッグの文化が根付いており、籠バッグが受け入れられる手応えを感じたという。
「ブースには、連日のようにトップブランドの方々が訪れ、僕らの話を熱心に聞いてくれました。その中で契約につながったブランドもありました」
セレクトショップのオーナーなどさまざまな出会いがあり、この時の展示会だけで複数の取引先が決まった。
そして今、船生さんは、これまでにない大きな仕事に向き合う。 某ブランドから、植物を織り込んだレリーフ作品の制作を依頼されているのだ。その作品が、ブランドのデザインモチーフとなる予定だという。
「世界中から植物を編む作家を探した結果、僕に白羽の矢が立ったようでして……」
船生さんはそう言って照れた笑みを浮かべながらも、目は真剣そのものだった。
「僕はあくまでも、籠職人であって、デザイナーではないんです。だから、こうした仕事をいただくのは少し不思議な気もするんです」
初めて船生さんの作品を知ったとき、私が惹かれたのも作品のデザインの斬新さだった。
しかし、船生さんはデザイナーではないという。
なぜ、このような作品を生み出せるのだろうか。