未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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100年以上使えて、3年で土に還る―― 信州、大町で生まれる山ぶどう籠バッグ、世界へ羽ばたく

文= 柳澤聖子
写真= 柳澤聖子(表記があるもの以外すべて)
未知の細道 No.289 |25 September 2025
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#8事業は順調にブームにのって

2003年、船生さんと土居さんは「山葡萄籠工房」をスタートさせた。

「友達同士の事業は3年以内に9割がつぶれるとも言われますが、僕らはもう20年近く仲良くやっています」

ふたりの性格は真逆だという。船生さんは、徹底的に石橋を叩いてわたる慎重派、一方、土居さんは頭で考えるより先に体が動く行動派だ。だからこそ、互いにない部分を補いあえる。自分にはない所をもつ土居さんを船生さんは心から尊敬しているという。

会社設立当初は土居さんの経験を活かし、中国に自社工房を設立。山ぶどう籠の輸入・販売を軌道に乗せる一方、船生さんは国内で作家活動をはじめた。

籠編みの基礎は、土居さんから教わった。革細工作家として革ひもを編んでカバンを作った経験はあったものの、山ぶどうという素材を理解し、自在に扱えるようになるまでには2年ほどかかった。最初は1つの籠を編むのにも今の倍の時間がかかっていたが、編み始めて3年目に、やっと自分でも納得できる籠が作れるようになったという。

船生さんの最近の作品。葉のような部分は、江戸時代から草履の編み方として伝わるひねり編みの手法を応用している。1つの籠バッグを作るのに、編みが複雑なものだと5~6日、単純なものだと2~3日かかるという。価格帯は3万円台から20万円と幅広い。

ほどなくして、NHKの番組『美の壺』で山ぶどう籠が取り上げられると、爆発的な反響を呼んだ。再放送のたびに、船生さんたちの工房にも注文が殺到し、売り上げも一気に4000万円ほどに。生産が追い付かないほどだったという。

その後も順調に事業は伸び続け2018年には、日本の森で採集した蔓を使い国内で制作する山ぶどう籠ブランド「Yama-Biko」を立ち上げた。会社も法人化し「マウンテンクラフト社」と名付けた。 しかしコロナ禍に襲われ、一気に売り上げが落ちた時期もあった。融資を受けオンライン販売を充実させ、「メゾン・エ・オブジェ」の出展に挑戦するなど試行錯誤し続けたことで、今がある。現在は土居さんが海外事業を、船生さんが国内事業や作家活動を担っている。

そして国内事業の中でも、船生さんが特に力を入れているのが、籠編み教室だ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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