最後は、ヒスイにまつわる最大の謎。糸魚川産のヒスイは、縄文時代には北海道から沖縄にまで流通していたことがわかっている。物々交換の際に使う通貨のような役割を担っていたようだ。弥生時代(紀元前10世紀頃~紀元後3世紀)、古墳時代(3世紀~6世紀頃)に入ると、朝鮮半島や中国にも渡る。小河原さん曰く、中国の史書『後漢書東夷伝』や『魏志倭人伝』にも日本からの献上品としてヒスイにまつわる記述が残っているそうだ。
ところが、それほど貴重でニーズもあったヒスイの生産が6世紀に入ると徐々に途絶え、やがて日本の歴史からも姿を消してしまう。それでも一部地域では細々と生産が……というレベルではなく、6世紀以降、どこの遺跡からも文献からもヒスイが一切出てこなくなるのだ。それって、どういうこと?
「記録がないので想像するしかないのですが、私は政治体制の変化と仏教伝来の影響よってヒスイの扱いが禁じられた可能性もあると考えています。弥生時代や古墳時代までは群雄割拠のような政治体制で、宗教も石を含めた自然を崇めるアニミズムが主流でした。それが飛鳥時代に入ると天皇を中心とした政治体制に変わり、仏像を拝む仏教が広まります。この劇的な変化のなかで、昔の政治体制や宗教の象徴的な存在だったヒスイを所有することがタブーになったのかもしれません」
日本という国を刷新するために、過去の遺物としてヒスイが抹消された!? これはもう歴史ミステリーの領域だ!
「それぐらいのことが起きないと、いきなり世の中から消えるなんて考えられないんですよね。ただのきれいな石だったら、そこまでしなくてもいいでしょう。かつて日本の政治や宗教の中心にあったからこそ、そういう扱いを受けたのではないかと思います」